腸管内に生息する腸内細菌は生体機能において重要な役割を果たしている。しかしながらこれまでのところ、腸内細菌がどのようにして全身の免疫機能を制御しているかについては明らかになっていない。本研究では、細胞間の情報伝達に関与することで知られる、分泌膜小胞「エキソソーム」に着目し、腸内細菌によるエキソソームの制御と、腸内細菌による生体機能の調節機構におけるエキソソームの役割を明らかにすることを目的に、腸内細菌を欠損した無菌マウスと腸内細菌を有するSPFマウスの血清由来エキソソームを精製し、その構成成分およびその機能を解析した。平成25年度は、無菌マウスとSPFマウスの血清由来エキソソーム中に含まれるmicroRNAのマイクロアレイ解析を実施し、microRNAの種類に違いがあることを明らかにしている。平成26年度は、無菌マウスとSPFマウスの血清由来エキソソームの機能を解析するため、それぞれのエキソソームを別のSPFマウスに移入し、肝臓および脾臓の遺伝子発現の変化をマイクロアレイを用いて網羅的に解析した。その結果、肝臓および脾臓において、エキソソームの移入によりmRNA発現に差が生じることが明らかになった。肝臓では脂質代謝や免疫関連遺伝子群の発現に差が認められた。また、興味深いことに、エキソソームの移入により肝臓および脾臓で発現量に差が生じた遺伝子は臓器ごとで異なっていた。これらの結果から、腸内細菌はエキソソームを介して、組織特異的に遺伝子発現を制御している可能性が示唆された。以上より、腸内細菌叢の有無により、血清エキソソームの量および構成成分に違いが生じること、また、血清エキソソームが臓器の遺伝子発現を制御しており、腸内細菌叢の有無によりその制御が異なることを明らかにした。以上より、血清由来エキソソームが腸内細菌による生体調節機構の一端を担ってる可能性が示唆された。
|