研究課題/領域番号 |
25660093
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山田 雅彦 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70230480)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 結晶成長 / 組織・細胞 / 食品 / 低温保存 / 低温生体工学 / 凍結 |
研究実績の概要 |
1.顕微鏡冷却ステージの製作と,誘電率測定による水分・氷結晶分布測定手法の確立: ペルチェ素子を用いて冷却装置を製作し,落射型顕微鏡のステージに設置することにより,試料片設置面温度を約-50℃までの範囲で任意な温度変化の設定を可能にした.これにより,温度応答が早くなり,低温庫内に比べ試料の温度変化をより意図したパターンに近く設定できるようになった. さらに,試料の誘電率を測定することにより,試料中の水分および氷の分量や分布を推定する方法を適用し,脂肪細胞中の水分の移動速度の測定を行った.この結果は,次項で述べるシミュレーションモデルを適用した水分移動速度の解析結果との比較検討によりシミュレーションモデルの妥当性の検証にも用いた. 2.分子シミュレーションによる針状氷結晶の生成メカニズムの解明と,包摂状氷結晶の生成条件の検討: 水の相変化に関して分子動力学を援用し,針状結晶や包摂状氷結晶を生成する条件を見出した.この結果から,細胞や生体組織を凍結保存する際に,それらを損傷することなく凍結させる温度条件や冷却速度などの最適操作の検討を行った. また,脂肪組織および脂肪細胞中の水分の移動に関して,脂肪細胞中においては,生体分子動力学ソフトを援用し,脂肪細胞中の水分子の挙動(移動・凍結)に関するシミュレーションを実施した.さらに,脂肪組織内の水分移動に関しては,組織と水分のマクロモデルを構築し,脂肪組織内で冷却や凍結,さらに凍結状態での保存条件下で水分がどのように移動するかを解明した.生体や食品の凍結変性には,氷晶の粒度分布が寄与しているという知見に基づき,このシミュレーション結果から,本研究の主目的である「生体組織の長期凍結保存」を検討する際の重要な因子である,凍結状態における脂肪細胞中の油脂の酸化変性のメカニズムに関して考察を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画した超音波付与による氷晶性状が生体組織の保存に適当ではないことと,超音波によるエネルギーが試料の温度上昇を引き起こすことから,当該実験を中止し誘電率の測定による組織片内の水分移動の実験に変更したため,実験遂行に予定外の時間を要したこと.また,脂肪組織内の水分移動に関するマクロモデルの構築に時間を要したことが主たる計画遅延の理由である.この遅れの主要因は解決済みであるので,次年度(計画最終年度)の前半における実質的なエフォートを上げる(他業務に影響を与えずに,当該研究に割く時間を増やす)ことで挽回可能である.
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今後の研究の推進方策 |
基本的に申請時の当初計画に基づきながら,本研究全体の目的において非常に重要であると考えられる「脂肪組織および脂肪細胞の水分含有量の分布の変化が低温時に細胞凍結に及ぼす影響」に関する検討を,実験およびシミュレーションの両面から実施して行く. 今年度の計画項目である超音波付与による氷晶性状の変化の検討を変更したため,今後は,顕微鏡上において冷却ステージを設置し,組織片の冷却条件による水分分布変化への影響を検討する.前記の実験検討と併せて長期保存による氷晶のサイズの変化の測定を引き続き行うが,その際の測定方法として誘電率の測定による方法を取り入れることにより,光学的な観測における試料片のサイズなどの制約を回避することが可能である. 次年度が本研究計画の最終年度であることから,今後は,分子動力学による水分子の配位シミュレーションの結果および凍結した試料中の長期間における氷結晶の状態変化の結果を統合し,低温に保たれた生体中の水分の移動および再結晶化のメカニズムの解明を試みる.また,食品や生体組織などを従来の極低温に比較して高い温度の凍結状態で長期保存しさらに融解後の食味など機能保存率の向上を図る方法を創案する.
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品費などを節約して生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品費などの節約により発生した未使用額47,532円は,次年度(計画最終年度)において,実験遂行時の消耗品費および研究成果の討論・検討のための旅費に充当する.
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