1.脂質および筋肉蛋白質分子の温度変化に対する構造変化の生体分子動力学による検討: これまで,生体中の水分の凍結状態を制御することにより,食品や生体組織を長期保持するという目的で,食肉をサンプルに用いて氷結晶の成長状態の観察および結晶成長の数値シミュレーションを実施した.針状氷結晶が発生しない条件は明らかにしたが,サンプルの長期低温保存による低温変成を引き起こす過程は解明することができなかった.平成27年度では,サンプルを構成する脂質分子や骨格筋などを形成する蛋白質の構造の温度依存性に着目し,生体分子動力学ソフトウェア Amber14を用いて,蛋白質の構造変化と温度の関係を解析し,脂質蛋白が低温を経験すると非可逆的な構造変化をすることを確認した.
2.凍結食肉中における氷結晶の変化の観察と保持温度の影響の検討: 計画初年度から平成26年度までは,食肉をサンプルに用い長期低温保存の実施をおこなった.保存温度は,-40℃から氷温近傍まで様々な温度条件に設定し,保存温度・期間がサンプルの状態に及ぼす影響の観察を行った.氷結晶の成長状態の数値シミュレーション結果から,針状結晶の発生防止は,超急冷による非晶質化のみならず,過冷却を極力排除した緩慢冷却によっても実現できることを見出した.しかし,実験においても,サンプルの長期保存による低温変成を防ぐ因子の解明には至っていない.研究期間を通じた実験により,組織中の水分移動が重要な因子であることが推測されたことから,平成27年度では,サンプル中の含水量の分布を測定するため,サンプルの複数箇所におけるインピーダンス変化の測定を試みた.この方法では,インピーダンス分布の実時間変化の測定結果が得られたが,そこから水分量分布を推定する方法が確立できておらず,今後も生体組織内の温度変化と水分移動の関係を継続して検討する.
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