今年度は当初の計画通り、テーマ①「米の品種による高分子鎖構造の違いが生地のレオロジー特性に及ぼす影響」、テーマ②「分子動力学シミュレーションによる高分子鎖構造と生地物性との相関解析」を実施した。テーマ①については前年度までの成果を踏まえ、「米澱粉中に含まれるアミロペクチン分子の分岐度による影響」を明らかにした。具体的には、昨年度までに確立したイオン液体に米澱粉を均一分散する手法を用いて高分子鎖構造(アミロペクチンの分岐度の違い)が異なる数種類の米澱粉を用意し、それらのレオロジー特性を明らかにした。検討の結果、アミロペクチンの分岐度の違いは高分子鎖の絡み合いにはほとんど影響しないことが示唆された。一方で、上記の試料に直鎖状高分子であるアミロースを添加した場合、高分子鎖間に絡み合いが発現することを明らかにした。これらの実験から澱粉生地のレオロジー特性にはアミロペクチン分岐鎖よりもアミロースの存在が大きく影響することが明らかになった。澱粉は構成するアミロペクチン(分岐状)とアミロース(直鎖)で構成されている。今回得られた実験結果は、特にアミロースの役割を解明する上で重要な知見になるものと考えている。澱粉生地のレオロジー特性と製パンなどの加工性の相関を得る上で、分岐構造ともに直鎖状高分子であるアミロースの役割も重要な因子であることが示唆された。 テーマ②については、製パン実験と計算機シミュレーションの両面で計画を実施した。製パン実験においては、澱粉分子の構造だけでなく、米粉の粒径も製パン性に影響を与えることが分かってきた。計算機シミュレーションにおいては、澱粉/水分子系のモデリングを検討し、糊化の挙動を捉えることを実施した。大きな分子の計算への足がかりを作るために、澱粉系の基本要素となるグルコース、マルトースという小さい分子の水中での挙動を、水素結合の様式に着目して解析した。
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