本年度は、以下の2項目について中心的に検討した。 (1) 炎症応答における低分子核酸の作用機構:J774.1マウスマクロファージに様々な低分子核酸の存在下でLPS刺激し、NO産生量を検討したところ、ATPまたはアデノシン(Ado)の添加により顕著なNO産生量の増加が認められた。NO産生増加のメカニズムとして、ATPとAdoはいずれもiNOSタンパク質およびmRNA発現を増加させることが明らかとなったが、ATPは、IFN-β産生を増加させることでSTAT-1の活性化およびIRF-1の発現増加を介してiNOS発現を増加させると示唆された。また、siRNAによるノックダウン実験より、この作用はP2X7受容体を介することが確認された。 (2) 細胞からの高分子核酸の分泌:J774.1やマウス胚性繊維芽細胞(MEF)、ヒト子宮頸部癌由来上皮細胞(HeLa)などの細胞種を用いて細胞外の二本鎖DNAおよびRNA量を検討したところ、J774.1からの分泌量が最も顕著であった。また、J774.1においては、LPSやATPのような細胞死を誘導する処理のほか、栄養飢餓や細胞内タンパク質分解系の阻害によっても顕著な核酸分泌が認められた。また、細胞外に分泌された二本鎖DNAはヌクレオソーム単位で断片化したDNAであることが示された。各種阻害剤を用いて検討したところ、細胞内分解系の異常やタンパク質翻訳機構の異常により核酸が分泌することが示唆され、タンパク質翻訳装置であるリボソームの分泌やDNAの断片化との関係性が示唆された。オートファジーなど細胞内分解機構との関連や、分泌された核酸の修飾など構造的特徴と炎症誘導活性との関連が今後の課題である。
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