ヒトを含む哺乳類は、生後、母体が分泌する乳を摂取することにより発達・成長する。したがって、乳摂取により、神経系と相互作用する分子が消化管内に生成することは合目的である。最近我々は、主要な牛乳タンパク質S1カゼインを消化管酵素で分解した際に効率的に生成するトリペプチドTyr-Leu-Gly (YLG)が、強力な情動調節作用を示すことを見出した。ヒト母乳タンパク質からも類似の神経調節因子が生成すると予想されるが、母乳中にはS1カゼインは含まれない。そこで本研究では、ヒト母乳の主要なタンパク質であるラクトフェリンを消化管酵素で処理した際に生成するペプチド断片に着目し、マウス高架式十字迷路試験により、その情動調節作用を検討した。
ヒトラクトフェリンを、消化管を想定した酵素条件で分解した際に生成する複数のペプチドを、化学合成し、それらをマウスに腹腔内投与したところ、抗不安作用を示すことがわかった。さらに、上記のYLGをN末端に有する6残基ペプチドが経口投与(1 mg/kg)で抗不安作用を示すことを見出した。神経系における新しい母子間相互作用と考えられ、今後、ヒト母乳由来の神経調節因子として生理的意義の解明が期待される。
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