研究課題/領域番号 |
25660107
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
脇坂 港 九州工業大学, 生命体工学研究科(研究院), 准教授 (00359944)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | キトサン / ナノファイバー / 氷晶 |
研究概要 |
本研究では、凍結を利用したミクロ構造化手法である氷晶テンプレート法により、海洋由来の天然高分子であるキトサンの水溶液からのナノファイバー創製に関して、凍結速度やポリマー水溶液の濃度などの凍結条件と構造さらにその物性との相関を評価することを目的とする。 低濃度(0.4 wt%)に希釈したキトサン溶液をシリコンウェハー上にスプレーで吹き付け、液体窒素を用いて急速に凍結させた後に凍結乾燥させた構造体を走査型電子顕微鏡で観察したところ、配向性を持つナノサイズの繊維状構造(平均繊維径約500nm)が確認された。ここで、キトサンを溶解させる際に使用する酸の種類やキトサンの分子量により、得られる繊維径が異なった。また、凍結速度が繊維状構造の形成に大きく影響を及ぼし、凍結速度が速いほど繊維径が小さくなることを確認した。さらに、得られた繊維状構造の比表面積を窒素ガス吸着法により測定したところ、16[m2/g]の無孔性材料であることが示唆された。一方で、高濃度(4wt%)に調製したキトサン水溶液を、-35℃あるいは-80℃の冷凍庫で緩慢に凍結させた場合には、それぞれ多孔状と膜状と形状の異なる構造体が観察された。これは鋳型となる氷結晶の形状の違いを反映するものと考えられ、凍結させる試料の濃度や凍結条件により、多孔状から繊維状に至るまで所望の形状に構造を制御できる可能性が示唆された。 ナノファイバー製造プロセスとして、物理的粉砕法やエレクトロスピニング法などがあるが、薬剤や高電圧を使用する点や処理効率の低さ、微細化の均質性(配向性の付与が困難)などが課題とされている。これらの課題を克服するため、凍結を利用したミクロ構造化手法である氷晶テンプレート法に着目し、溶液の吹き付けという操作と組み合わせることにより、キトサンからナノファイバーを創製する新たな手法を生み出したことが本年度の成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、海洋由来の天然高分子であるキトサンの水溶液から、凍結を利用したミクロ構造化手法である氷晶テンプレート法によるナノファイバー創製に関して、凍結速度やポリマー水溶液の濃度などの凍結条件と構造さらにその物性との相関を評価することを目的とする。実施計画通りに研究を遂行し、凍結させる試料の濃度や凍結条件を様々に変化させた場合の凍結乾燥体の構造を観察し、多孔状から繊維状に至る変化を確認し、比表面積などその特性の評価を行った。特に、氷晶テンプレート法と溶液の吹き付けという操作を組み合わせて、低濃度のキトサン水溶液を液体窒素で急速凍結することにより、配向性を持つナノファイバーを作成する新たな手法を見出せた。
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今後の研究の推進方策 |
キトサンの水溶液からナノファイバーを創製する新たな手法とその条件を昨年度までに見出した。氷晶テンプレート法は物理的プロセスであるため、アルギン酸やカラギーナンなど他の海洋由来の天然高分子多糖類に応用できる可能性がある。キトサンをはじめとする海洋由来の天然高分子多糖類には、イオン性の官能基を有するものが多く、生理的活性をはじめとする優れた機能性素材としての可能性がナノファイバー化により大きく拓かれる可能性がある。 そこで実施計画の当初予定通り、キトサン以外の海洋由来の天然高分子を対象として、凍結速度やポリマー溶液濃度といった操作条件を変化させた場合に得られる凍結乾燥体の構造観察さらにその物性との相関をキトサンの場合と同様に体系的に評価する。また、キトサン以外の海洋由来の天然高分子に対しても、氷晶テンプレート法と溶液の吹き付けという操作によるナノファイバー化手法の有効性を検証する。さらに、各ポリマー単独だけでなく、ポリマー同士や他の薬物、金属などとの複合化についても検討する予定である。これらを検討することにより、食品包装、創傷被覆、薬物担持や細胞足場材料など幅広い分野への産業応用に向けて有益な知見を提供することが出来る。
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次年度の研究費の使用計画 |
キトサンナノファイバーについて、X線小角散乱を用いて解析する手法の妥当性を検討するため、佐賀県立九州シンクロトロン光研究センターにおいて、X線小角散乱の分析を委託した(初回のみ無料)。先方の装置メンテナンスのため分析結果が得られた時期が年度末となった上、解析手法としての有効性が明確に確認されなかったため、実費による今年度の委託分析を見送ることとしたため、未使用額が生じた。 キトサンナノファイバーについて、X線小角散乱を用いて解析する手法の妥当性が、一検体では判断しかねるため、複数検体についてさらに検討する必要があり、次年度に引き続き行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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