森林からは、植物起源のさまざまなエアロゾルが発生している。森林が放出する揮発性有機化合物(VOC)起源のエアロゾルに関しては大気化学の分野研究例が多いが、その他の起源の森林エアロゾルに関する情報は少ない。本研究では、森林に沈着した福島第一原子力発電所事故起源の放射性セシウムがエアロゾルとして再拡散している可能性が示唆されているのを受け、森林エアロゾルの性状とその発生メカニズムを明らかにすることを目的とする。その手法として、「クモの巣」に付着したエアロゾルを観察することを本研究の特徴として研究をおこなった。 福島県伊達郡川俣町の山林において、林縁に存在したジョロウグモの巣を採取すると同時に、インパクターを用いてエアロゾルを採取し、電子顕微鏡による観察をおこなった。 その結果、クモの巣の糸上に確認される物質は、生物遺体(クモの補食後)以外には特徴的な形状の物質が観察できなかった。クモが巣上の物質をエサとしていることを考えると、微小な粒子も有機物であれは補食されている可能性も考えられ、クモの巣でエアロゾルを捕集するというアイディアは適切ではないことが明らかとなった。一方、インパクターによる捕集では、さまざまな形状・大きさのエアロゾルを観察することができ、森林内でのエアロゾル採取に適していることが示された。 採取したエアロゾルも、時間の経過により菌糸を出すものがあり、なにかの胞子であることが推測された。また、球状の粒子が観察された。これは、すでに報告されているセシウムボールと形態が似ており、森林内でもセシウムボールが再拡散していることが示唆された。
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