樹木の樹皮下に穿孔する昆虫に寄生する寄生蜂は,外部から,寄主の存在や種類,大きさを識別することができない。本課題では,このような寄生蜂も,露出型寄主に寄生する寄生蜂と同様に,寄主の大きさを見極め,次世代の雌雄の産み分けを行なうことができるるのかどうかを明らかにするため,樹皮下穿孔性甲虫の幼虫に寄生する代表種キタコマユバチ(Atanycolus genalis)を用いて検証してきた。本年度は,昨年度までに行ってきた,キタコマユバチに生得的な寄主サイズの評価基準が存在するかどうかを明らかにするための,産卵アリーナを用いた実験の結果を詳細に検討した。 当初産卵時に寄主サイズに応じて雌雄どちらを配分するかを記録し,さらに,雌蜂に寄主サイズ(生重)Sの寄主のみ,Mのみ,Lのみを連続供試した場合に,どのような次世代性配分を行うのかを検証した。その結果,Sの寄主のみ,Mのみ,Lのみをそれぞれ連続供試した場合,生得的な寄主サイズ基準に類似した次世代性配分,すなわち,Charnovの寄主サイズモデルに従った相対評価に基づく次世代性配分は認められなかったが,雌蜂にLの寄主を供試した後にMの寄主を供試すると,この場合のMの寄主における性比(雄比率)0.5は,Mの寄主のみを経験した場合の性比0.05よりも有意に高くなった。 以上のことから,1)キタコマユバチは生得的な寄主サイズ評価基準を持ち,供試する寄主サイズ分布のばらつきが小さい場合は,生得的な基準により次世代性配分を決定する,2)供試する寄主サイズ分布のばらつきが大きくなるにつれて,雄:雌=1:1に近づくように次世代性配分を決定する,3)寄主サイズ分布がある程度のばらつきを持った上で,寄主サイズ分布が変動することにより,寄主サイズを相対的評価(性比曲線のシフト)して性配分するようになることが,本課題の実験系によって初めて明らかにされた。
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