研究課題
本研究は、森林施業が河川生態系へ及ぼす長期的影響を、炭素・窒素安定同位体比に加え、発展的な手法であるアミノ酸の窒素安定同位体比および放射性炭素14を用いて解明することを目的とした。調査地は、京都大学フィールド科学教育研究センター和歌山研究林およびその周辺の集水域を対象とした。H27年度は、採集された水生昆虫とその餌資源の同位体比の分析を進めた。河川水の硝酸態窒素濃度(NO3-)は伐採後急速に上昇し、5ー6年後に最高値を示し、その後15年で伐採前の水準に回復した。溶存炭素濃度は林齢に伴う明らかな傾向はなかったが、溶存窒素濃度は伐採後濃度が上昇し、その後20年程度で伐採前の水準に回復した。水生昆虫は、6目20科9属の計35分類群を確認した。摂食機能群別に出現量をみると、若齢林ではヒラタカゲロウなど刈取食者が卓越し、高齢林ではヨコエビなど破砕食者が増加していた。また、水生昆虫の炭素安定同位体比(δ13C)は、成熟林になるほど低下し、リターのδ13Cに近い値を示した。これらの結果から、河川生態系は森林の若齢期は付着藻類を起点とする食物網が形成され、成熟林では陸上資源に強く依存すると考えられた。また、生体内アミノ酸の窒素安定同位体比(δ15NGluおよびδ15NPhe)からは、各分類群の水域と陸上起源の有機物の依存度や栄養段階を推定できることを示した。また、付着藻類および刈取食者に含まれる放射性炭素14は、現代のCO2よりも低い値を示していた。これらは、岩石中に含まれる古い炭素が地下水などに溶け込み、水生昆虫に利用されていることを示唆していた。以上の結果から、森林施業が河川生態系へ及ぼす影響は長期に渡り作用し、食物網構造が伐採前の状態に回復するには、50年以上必要であることが分かった。本研究の成果は、Ecology 97(5),pp.1146-1158に公表した。
すべて 2016
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Ecology
巻: 97 ページ: 1146-1158
10.1890/15-1133.1