研究課題/領域番号 |
25660125
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
名波 哲 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (70326247)
|
研究分担者 |
伊東 明 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (40274344)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 雌雄異株 / 性判別 / DNAマーカー / 繁殖生態 / 森林動態 |
研究実績の概要 |
雌雄異株植物の集団においては、性比の偏りや場所による性比の違いがしばしば観察される。その成因を考える時「出生時の性比は場所によらず1:1である」ということが前提とされる。しかし、未開花個体の性判別は容易でないため、その前提は十分検証されていない。それを解決する手段のひとつに性判別DNAマーカーがあるが、開発に成功した種数は少なく、マーカーを用いて実際に野外集団を調査した例はみられない。本研究では、奈良県御蓋山の優占種であるナギを対象にRAD シーケンスを利用して性判別DNAマーカーの開発に取り組んだ。まず、オス7個体、メス6個体、計13個体のナギについて、RADシーケンシングによりDNAの塩基配列情報を収集した。これにより100塩基からなるリードの配列情報が、1個体につき19万~40万、平均25万リードについて得られた。この中には、全てのオスから見つかるがメスからは見つからないリードが56本あった。その中からプライマーの設計に適した条件(ForwardとReverseでアニーリング温度が大きく違わない等)を満たす12本のリードについてプライマーを設計し、雌雄各24個体、計48個体の成熟木のDNAサンプルを用いてPCRを行った。その結果、2組のプライマーがオスのみで断片を増幅させたため、ナギの雌雄判別マーカーとした。続いて、性が分からない実生のサンプルを御蓋山の斜面下部と上部の各1箇所からそれぞれ24本ずつ採取し、性を判別した。オスとメスの比は、斜面下部では8:16、斜面上部では15:9で、どちらの場所でも性比の1:1からの有意な偏りは見られなかった(二項検定)。また、斜面下部と上部での性比の有意差もなかった(Fisher's exact probability test)。したがって、雌雄異株植物の研究で前提とされてきた条件がナギでは支持された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
雌雄植物ナギについて、複数の性判別DNAマーカーの開発に成功した。これまで性判別マーカーが開発されている雌雄異株植物の多くでは、マーカーは1個しか開発されていない。マーカーが1個しかないと、ヌル対立遺伝子の存在によって、性判別を誤る可能性があるが、複数あればその危険性を減らすことができる。よって、本研究で複数の性判別まマーカーを開発できたことは意義深い。また、これまでマーカーを用いて実際に野外集団を調査した例はみられない。本研究では、マーカーをナギの野生個体群に適用し、雌雄異株植物の研究における「出生時の性比は場所によらず1:1である」という前提が否定されないことが示された。
|
今後の研究の推進方策 |
ゲノム情報のない植物に対して、RADシーケンス法の有効性が示されたので、多くの雌雄異株植物で性判別マーカーの開発に取り組む。また、ナギの野生個体群で48本の実生の性を判別したが、調査個体数をさらに増やし、詳細なデータ収集を試みる。また、今回開発されたマーカーはオスのみにバンドが出るもの2つであったが、さらに数を増やすことに挑戦する。また今後は、メスにバンドが出るマーカーを探索する必要もある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、ゲノム情報ない植物から大量のDNA配列情報を得るためにRADシーケンス法を採用した。解析を外注し、ナギ、アカメガシワ、イヌガシのデータを得たが、当初の見積もりの3ヶ月よりも長い6ヶ月を要した。解析に要する時間は、DNAの状態や植物のゲノムサイズにある程度依存し、実際に行ってみないと分からないことが多く、正確な見積もりは現実的には困難である。そのため、次に予定していたイチョウ等の解析が間に合わず、次年度に行うことになった。
|
次年度使用額の使用計画 |
2015年度に解析を終了する予定であったイチョウ等のRADシーケンス法による解析を行い、一方の性特有に見られるDNA配列を探索する。見つかれば、その配列を増幅するプライマーを設計し、開花・結実の観察から性がすでに判定されている個体についてPCRを行い、雌雄一方の性に特有の配列であることを確認する。さらに野生個体群の未開花個体にそのマーカーを適用し、性を判別する。すでに成功しているナギ以外のできるだけ多くの樹種で性判別マーカーを開発する。
|