雌雄異株植物では、しばしば性比の偏りや雌雄の分布の空間的な分離が観察される。これらの構造が形成されるプロセスとして、考えられる1つ目は、種子集団の性比は1:1であり、開花個体集団の性比の偏りは、一方の性の早熟性や生存率の高さから生じるというものである。2つ目は、性比は出生時から偏っており、その偏りが開花個体集団において顕在化するというものである。多くの研究では前者を前提として説明が試みられてきたが、推測の域を出ない。奈良県御蓋山においても、優占種ナギの性比や雌雄の空間分布の偏りが観察されている。それらの成因にせまるため、まず、オス7個体、メス6個体からRAD-Sequence解析を使い塩基配列情報を得た。その結果、100塩基からなるリードの配列が、1個体につき平均25万本得られた。この中で、オスのみに見つかるリードが56本、メスのみに見つかるリードが8本確認された。これらのリードに対してプライマーを設計し、雌雄それぞれ24個体に対してPCRを行い、個体数を増やしても雌雄のどちらかだけで増幅されるリードを探索した。その結果、オスだけで増えるリードが5本見つかった。ナギはオスが特異的な性染色体をもつとされており、これらのリードは、性染色体上の配列である可能性がある。一方、メスだけで見つかるリードは見つからなかった。次に、御蓋山の4箇所において、1箇所につき32~45本、合計148本の実生からDNAを抽出し、性判別を行った。雄の割合は場所によってやや異なるもの、0.465~0.600となり、性比の偏りや場所による差は見られなかった。したがって、雌雄異株植物の研究で前提とされてきた「出生時の性比は場所によらず1:1」という条件がナギでは支持された。本研究では、これまで推測の域を出なかった雌雄異株植物の未開花個体の性判別を野生個体群に適用し、世界的にも稀有な成果を得ることができた。
|