研究実績の概要 |
ヒノキは難挿し木発根性の針葉樹と認識されているが、中でも発根性に優れた挿し木品種であるナンゴウヒに着目し、普通ヒノキ(この場合,精英樹大井6号)との発現遺伝子の比較から、発根性関連の候補遺伝子を明らかにすることを試みた。 発根ステージが異なる3種類の挿し穂(ナンゴウヒN14型(0日)、ナンゴウヒN14型(一ヶ月経過、根を含む)、大井6号(一ヶ月経過、カルスを含む))を用い、挿し穂全体をすり潰し、RNAを抽出した。Illumina社のHiSeq2000で配列データ(各サンプルあたり4Gb、総計12.5Gb)の発現遺伝子データを収集した。その結果、148,163本のコンティグ配列(平均長は700bp)を得ることができた。シロイヌナズナのタンパク質配列とのBLASTXによる相同性探索(では、50,002本 (33.7 %) のコンティグ配列にシロイヌナズナの配列と類似した配列が見つかった。さらにシロイヌナズナで側根と不定根の発生に関係のある139個の候補遺伝子に着目したところ、90個の遺伝子が993個のヒノキのコンティグ配列との配列類似性を示した。また、挿し木後一ヶ月経過したナンゴウヒN14型と大井6号のサンプル間で発現量に違いのある遺伝子の探索を行った。その結果、1,312個の遺伝子の発現に違いがあると考えられた。発現量に違いがあった配列は、ストレスへの応答やシグナル伝達に関係する遺伝子であることが多かった。挿し木直後と一ヶ月経過時のナンゴウヒの発現遺伝子の種類と発現量の違い、挿し木1ヶ月経過時のナンゴウヒと普通ヒノキにおける発現遺伝子の種類と発現量の違いを検出し、ヒノキの挿し木発根性に関連すると思われる発現遺伝子群を収集した。これらの遺伝子に対して塩基配列を明らかにし、DNAマーカーを開発するためのプライマーのデザインを行った。このことにより、針葉樹種の系統進化学的研究、造林、育種などで利用できる道筋を作ることができた。
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