研究課題/領域番号 |
25660128
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 独立行政法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
伊原 徳子 独立行政法人森林総合研究所, 森林遺伝研究領域, 主任研究員 (40353594)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | スギ / 高温ストレス / DNAメチル化 |
研究概要 |
本研究は、スギの環境適応に関連する表現型の多様性に対し、ゲノムDNAのメチル化等によるエピジェネティック(後天的)な遺伝子発現制御がどの程度寄与するかを解明する目的で行っている。自然条件下で年変動が大きくかつ実験的制御の行いやすいこと、温暖化の影響に対する知見が期待できることから、スギの実生を用いて気温(特に高温ストレス)による遺伝子制御の変化を対象として解析を進めている。 高温ストレス応答が由来する地域によって異なるかを考慮するため、北海道から九州までの13集団から110母樹を選んだ。発芽条件を検討するため、各母樹から12種子を水分条件がより均一に近いとされるロックウール培地にランダムに播種した。人工気象器を用いて暗期8時間と明期16時間のサイクルで発芽及び高温ストレスの試験を行った。発芽は①暗期16℃-明期25℃(標準条件)、②暗期21℃-明期30℃(高温条件)の2種類で行った。全体の発芽率は両条件とも30日後に約20%であり、母樹により大きく異なった(0-83%)。発芽率の温度条件による違いは全体、集団毎とも有意ではなかった。母樹の由来する集団は気象データの主成分分析の結果に基づきさらに6つのクラスタに分けられるが、発芽に要する日数はクラスタ間で、標準条件及び高温条件ともに有意に差があった(p<0.05)。発芽に要する日数は標準条件と高温条件間で母樹によって変動が認められたが、気象条件によるクラスタの影響は有意ではなかった。 また、25℃で発芽させた母樹について、実生の子葉がほとんど展開した時点で暗期28℃-明期38℃の高温ストレス条件下へ移し、遺伝子発現の変化を解析するための経時的なサンプルを得た。シロイヌナズナで高温ストレス応答の鍵となる遺伝子について、スギのホモログ遺伝子(cjHsfA1)の塩基配列を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
気象条件の異なる地域に由来するスギの種子を用い、一定の発芽条件下では発芽特性が由来する地域によって異なることを明らかにできた。また、高温ストレスによる遺伝子誘導を調べるためのサンプリングを行うことができた。植物育成機器の故障により次世代シーケンサーによる発現遺伝子プロファイルの解析は次年度に持ち越しとなったが、概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
まず、高温ストレス下におけるcjHsfA1の発現の経時的な変化をおさえる。また、38℃の高温処理では20日後も生残している実生個体がほとんどだったため、45℃での高温ストレスによる実生個体及びcjHsfA1遺伝子発現の変化について調べる。これらの結果に基づいて、高温ストレスにさらされた異なる地域及び発芽条件の個体からRNAを経時的にサンプリングし、次世代シーケンサーで解析を行う。 高温ストレスへの発現応答に対する種子の産地・発芽温度の影響が有意であった遺伝子の情報を得て、メチル化の関与について解析する。また、必要に応じてゲノム全体のメチル化についても解析を行い、ゲノム全体の塩基多型及びメチル化多型と遺伝子発現パターンの統計解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
植物を育成する機器の故障により実験計画に遅れが生じ、当該年度の予算のほとんどを使用する予定であった次世代シーケンサーによる受託解析を次年度に行うことにしたため。 次世代シーケンサーによる受託解析を本年度において行う予定である。解析結果に基づき次世代シーケンサーの解析を行うサンプル数を増やす必要が生じた場合や受託解析の価格の変動等、やむを得ない場合においては翌年度分として請求した助成金の一部を合わせて使用する。それ以外の助成金については、当初の計画書の予定にしたがって、遺伝子発現実験やゲノムDNA解析に使用する。
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