本研究は、リグニン中で最も主要な結合様式であるβ-O-4結合の開裂速度が、何故、芳香核構造および側鎖部分の立体構造の影響を著しく受けるかと言う点の解明を目的として行われた。本結合の開裂反応はリグニン分子全体の低分子化や脱リグニン反応の程度を決定する非常に重要なものであるから、この点の解明は、基礎的にも、産業的応用と言う点でも極めて重要であると考えられた。 この点の解明を目指して、β-O-4結合を有する多種類のモデル化合物を合成した。これらは、芳香核構造(H核、G核、S核、あるいはメトキシ基以外の置換基を導入した核)、C3型側鎖(erythroあるいは threo型立体構造)、C2型側鎖(立体構造を有しない)等の点において違いを有する10数種類のモデル化合物である。これらの異なったモデル化合物を、蒸解条件でのアルカリ処理、強制的に全水酸基を解離させた条件でのアルカリ処理、水酸基の解離を限定した条件でのアルカリ処理等に供し、β-O-4結合の開裂挙動を詳しく解析した。 その結果、β-O-4結合のアルカリ性下での開裂において重要な因子は、側鎖α位水酸基の解離の程度、および、解離した水酸基の求核性の大きさであることが分かった。少なくとも、芳香核構造の相違は、これら二つの因子を通して、β-O-4結合の開裂速度に影響していることが示唆された。今後、酸化反応性、酸に対する反応性などにおいても同様の検討を行っていくことの重要性が示された。
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