原子間力顕微鏡(分子間力プローブ顕微鏡は本研究で用いた機器の名称であり、研究タイトルとしてこれを用いているが、本報告書ではより一般的な名称である原子間力顕微鏡を使用する)のミクロフィブリル傾角等の木材物性評価への応用可能性を検討するために、原子間力顕微鏡(FM検出方式の分子間力プローブ顕微鏡)を用いてヒノキ仮道管壁縦断面を観察した。飽水状態のヒノキ木片のスライディング・ミクロトーム板目切削面の仮道管壁縦断面を観察したところ、長径150~600 nm、短径100~300 nm 程度の楕円形の構造や100~300 nmの円形の構造が認められる視野があった。スライディング・ミクロトームを用いた切削や、飽水処理と乾燥処理による非結晶領域内の水溶性成分の除去や細胞壁の膨潤・収縮によって楕円形や円形の構造の存在が強調されたために、観察された可能性がある。ミクロフィブリルの束の横断面が円形であると仮定すると、断面形状は傾角が小さいほど楕円形に、傾角が大きいほど円形に近い形状になると考えられる。観察された楕円形や円形の構造がミクロフィブリルの束に由来するものであれば、そこに傾角等の情報が含まれると考えられ、傾角測定の検討が期待できる。今後は、構造を安定的に観察できる条件を検討する必要がある。
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