木材の乾燥下における水分移動の実態を、電子遷移レベル(近近赤外域)、分子振動レベル(近赤外~赤外域)、および分子回転レベル(テラヘルツ域)の広帯域マルチ分光計測で統合的に把握するという新奇計測アプローチを提案し、乾燥現象の樹種・樹幹部位依存性を微視的~巨視的オーダで明らかにすることを目的とした。 カナダ・ノーザンブリティッシュコロンビア大学において、デシケータ内に静置し各種含水率状態とした木材の時間領域テラヘルツスペクトルを測定した。得られたスペクトルに各種処理を施すことで、木材のテラヘルツ領域複素誘電率を算出した。これらに有効媒質理論を適応することで、木材の密度および含水率を高い精度で予測できることを示した。また、木材中の水の誘電率複素数部は木材の含水率にともない変化することを見出した。一方水分子の誘電率実数部は含水率によって変化しなかった。 また含水率を変化させたベイマツ材に近赤外ピコ秒パルス波を照射し、透過した光強度を測定した。ピコ秒オーダの光強度変化を拡散方程式に当てはめることで、木材の散乱係数および吸収係数を算出した。散乱係数は含水率にともない減少した。これは木材の細胞壁構造の変化を強く反映したものであることが示唆される。また、吸収係数は含水率にともない線形に増加した。これにより、846nmの吸収特性は木材中の自由水と結合水で変化しないことが示された。 以上より、木材中の水分子のテラヘルツ領域および近赤外領域への応答が明らかにされた。
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