研究概要 |
化石原料の枯渇や地球温暖化問題を背景として、石油リファイナリーから、セルロース系バイオリファイナリーへの変革が世界的に希求されている。バイオマス中のセルロースの糖化では、セルラーゼの投入量を極力減らすことがプロセスのコスト競争力を高めるために必須である。セルラーゼの反応性を高めるため、セルラーゼの触媒活性の増強や糖化のための酵素カクテルの最適化が活発に研究されてきた。しかしながら、実バイオマス糖化では、共存するリグニンがセルラーゼに吸着して酵素の失活を起すことが酵素使用量の低減を阻む大きな要因となっている。それにもかかわらず、セルラーゼのリグニンへの吸着機構はほとんど解明されていない。真核生物で発現したセルラーゼには多くの糖鎖が結合しており、これらの糖鎖はリグニンへの吸着に影響を及ぼしていると考えられるが、これらの点も未解明である。本研究では、セルラーゼの表層環境を人為的に改変し、リグニンへの非生産的吸着を抑制したスーパー糖化酵素開発のための新戦略を打ち立てることを目的とした。本研究では、Trichoderma reesei由来の3つのエンドグルカナーゼ(EG1, EG2, EG3)に着目し、それらの組換え酵素に対する可溶性低分子リグニンや糖過分解物の活性阻害効果を比較した。EG1とEG2は、糖質結合モジュール(CBM)をもつため、CBMを欠損した組換えタンパクも調製し、これらのタンパクとリグニンとの親和性を水晶振動子マイクロバランス(QCM)を用いて解析した。また、表層環境改変のため、糖鎖をグリコシダーゼで切断し、その影響を評価した。発現させた5種類の組換え酵素はすべて活性型として精製することに成功した。CBM1を欠損させると、EG2はリグニン親和性が大きく低下するが、EG1はその影響が小さいことを明らかにした。また、糖鎖切断による、親和性への影響も明らかにした。
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