藻場,干潟などの沿岸生態系は多様で多くの恩恵(生態系サービス・非利用価値)を人類に供給するにもかかわらず,その価値評価は陸域に比べて世界的にも大きく立ち後れている.生態系の価値が適正に評価されていない現状が,沿岸域をめぐる保全・開発の対立を生みだす要因となり,地域によっては大きな社会問題となっている.問題の根本的解決のためには,沿岸生態系に備わった物理・化学過程,生物生産,文化価値,非利用価値などの多様な価値を定量的かつ包括的に評価する調査・研究手法の統合が緊急的課題である.本研究では,申請者らが全国のサイトで実施してきたフィールド調査(理系的手法)と,仮想評価法(Contingent Valuation Method=文系的手法)を統合した「文理融合的手法」により沿岸生態系の包括的価値評価に取り組む.日本特有の多様な自然環境と人間による利用形態に応じた沿岸生態系の管理手法を提案し,人類が長期にわたって安全・安心・豊かな資源を享受できる沿岸生態系との関わり方の確立をめざす. 平成25年度には,潜水センサスにより水中植生の目視調査を行い,藻場の面積,被度などを測定する現場調査を実施した.併せて,巻き網を用いた魚類採集を各サイトで実施し,藻場面積と魚類群集に関する定量的データを得て主に直接利用価値推定のための野外観測データを入手した. H26年度には,間接利用価値のうち文化サービス(レジャー,観光)に相当する部分および非利用価値(遺産価値,存在価値:生物多様性など)に対する支払い意思を評価するためのアンケートを実施した.人々の支払い意思に対する現場データの影響を考慮するために,藻場の生態系サービスに関する情報を提供する前後で支払い意思額の比較を行った.
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