研究課題/領域番号 |
25660151
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 徹 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70344330)
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研究分担者 |
酒井 義文 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (10277361)
横井 勇人 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (40569729)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 逃避行動 / 多型性 / ゲノム情報 / メダカ / 魚類 / 繰り返し配列 / 脳機能 |
研究実績の概要 |
養殖魚に望まれる遺伝的特性ひとつに、“暴れない”あるいは“神経質でない”など「飼育に適した性質」がある.哺乳類では、タンパク質内の単一アミノ酸のリピート数の多型、プロモーター領域内のマイクロサテライト(MS)の多型により、性格の差異が発生する例が多数知られている.本研究では、ゲノム情報とバイオインフォマティックスにより、単一アミノ酸のリピートおよびプロモーターにMSが存在する遺伝子を検索し、性格の異なる系統間で多型解析を行うことにより、性格制御遺伝子を同定することを目的とする.メダカには、人を恐れないDrR系統、驚いて逃避するHNI系統の極端に性質が異なる2つの系統がある.昨年度、単一アミノ酸のリピートを有する遺伝子をメダカゲノムデータベースから抽出し、その中から野生集団、DrR系統およびHNI系統間で多型を示す遺伝子を6つ同定した。今年度は、プロモーターおよびイントロンにMSが存在する遺伝子をメダカゲノムデータベースから検索し、系統間で多型の有無を解析した。また機能的な側面から候補遺伝子を探すことを目的として、次世代シーケンサーを使ったトランスクリプトーム解析により、DrRとHNIの2系統の脳内発現量が異なる遺伝子を探索した。 哺乳類では、攻撃性、慎重さなどの性格に関係している脳内シグナルの受容体、輸送体、生合成に関わる遺伝子が複数同定されている。それらのメダカ相同遺伝子の5’UTRから上流1000bpとイントロンの塩基配列をダウンロードし、MSを検出した。その結果、tph1b(セロトニン合成酵素)はプロモーター領域に、drd3(ドーパミン受容体D3)とar(アンドロゲン受容体)では第一イントロンにMSが見つかった。PCRによる解析により、これら3つの遺伝子のMSはいずれも、系統間で多型性を示すことが分かった。 一方、トランスクリプトーム解析では、DrRとHNIの2系統間で脳内発現量が10倍以上の差がある遺伝子が7種類(POMC等)見つかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、単一アミノ酸10個以上のリピートを有し、かつリピート数が野生型、DrR系統およびHNI系統間で多型性を示す脳機能関連遺伝子をスクリーニングし、該当する遺伝子としてclockおよびsox11の2遺伝子を見つけることができた。 本年度は、プロモーター配列内にMSを有し、かつMSが野生型、DrR系統およびHNI系統間で多型性を示す脳機能関連遺伝子を検索し、該当する遺伝子としてセロトニン合成酵素であるtph1bを見つけた。加えて、イントロンに多型性を示す脳機能関連遺伝子として、ドーパミン受容体D3とアンドロゲン受容体が見つかった。これら3つの遺伝子はいずれも、哺乳類において性格の個体差に深く関わっていることが知られており、メダカでも有力な性格関連遺伝子でと考えている。また次世代シーケンサーを使ったトランスクリプトーム解析により、DrRとHNIの2系統で顕著に発現量の異なる遺伝子が7つスクリーニングされた。 このようにこれまでの解析によって、メダカの性格関連遺伝子の候補として、合計12の遺伝子がピックアップされた。このような成果は、おおむね計画通りであると判定している。
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今後の研究の推進方策 |
野生型メダカを日本各地から採取し、候補遺伝子の多型性と逃避行動との関連を解析することにより、候補遺伝子が実際に性格と関連しているかどうかを判定する。 また、ゲノム情報が利用できる養殖重要魚種トラフグを使って、メダカで見つかった候補遺伝子の多型性と性格との関連を解析する。具体的には、単一アミノ酸のリピートを有する候補遺伝子をトラフグゲノムデータベースから抽出し、PCRプライマーを設計して多型性を解析する。またプロモーターとイントロンに関しては、メダカで行ったのと同様に、MSが存在する脳機能関連遺伝子をゲノムデータベースから抽出し、個体間で多型性を比較する。 一方、臆病というような性格が、個体発生のどのような時期に形成されるかはよく知られていない。人影に気づくと逃避行動を示すメダカHNI系統を使えば、逃避行動を指標として性格の発生を解析できる着想した。そこでHNI系統の仔魚を使って、逃避行動が個体発生のどの時期に形成されるのかを解析することとした。
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