前年度は生化学的因子が及ぼすストレス応答を検討したが,今年度はこれに引き続き,行動生理学的因子が及ぼすストレス応答の検討を行った. ティラピアの雄魚は縄張りをつくり,同種の雄に対して威嚇行動をとることが知られている.この際,魚体には何らかのストレスが負荷されているものと推察されるが,具体的なストレス因子はほとんど明らかにされていない.そこで,魚類のストレス応答と個体間の威嚇行動との関係を調べるために,バイオセンサを用いて魚体内のグルコース値を指標としたストレス応答モニタリングを試みた. まず,中型個体のティラピア雄魚(約250g)が遊泳する水槽に,それよりも小型の個体を投入して一定時間混泳させた後水槽より取り出し,さらに数時間後に中型個体よりも大型の個体を投入した.その結果,小型の個体を投入した場合は,中型個体のグルコース濃度はほとんど変化しなかったため,この個体はストレスをあまり受けていないことが推察された.次に大型個体を投入した場合は,中型個体のグルコース濃度は著しく上昇した.この時,大型個体が中型個体を追い回す様子がしばしば観察されたことからも,中型個体はかなり強いストレスを受けていたものと推測される. 次に,水槽の中央に透明な仕切り板を設置することにより個体同士が直接接触しない状態をつくり中型個体と大型個体を対面させた.その結果,対面直後には中型個体のグルコース濃度は徐々に上昇したものの,大型個体を取り出した後は元の平常値に戻る現象が確認できた.この実験系では個体間の物理的接触がないことから,中型個体は視覚等による刺激を受け,それがストレスとなって応答しているものと推察される. 今後,バイオセンサを用いて各種ストレス因子とそれに伴う行動生理学的な変化との関係を考察することにより,「魚のきもち」を知るための手がかりを探求できるものと考えられる.
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