研究課題/領域番号 |
25660157
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山口 明彦 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (10332842)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ストレス反応 / エストロゲン / アロマターゼ / 攻撃・逃避 / 脳・神経回路 / 成長ホルモン / 視物質 / オプシン |
研究概要 |
魚類は色覚が発達しており、光や色の環境情報刺激は繁殖・産卵行動などを誘導することが知られる。申請者は、LEDの単波長をトラフグ仔稚魚(孵化後2週~4週齢)に照射することで、特徴的な反射様行動を誘起することを明らかにした。現在までに赤・青・緑の3波長を用い、赤⇔青 赤⇔緑 の波長切り替えと同時に赤照射時は水槽壁面へ逃避し、壁をつつく行動が見られ、青・緑では分散し穏やかな遊泳を繰り返すことが再現できている。当初このつつく行動は摂食や攻撃を意味すると考えていたが、赤色光の連続照射では体長にばらつきが見られ成長阻害が起きるため、赤色光連続照射による極度のストレス誘導の可能性を考えた。一方、緑⇔青の切り替えでは目立った行動変化は起きず、青色照射では体長の平均化が起きる。トラフグでは網膜視物質受容体のオプシンは赤(1)・緑(2)・青(1)の4つの遺伝子から構成されるが、赤と青・緑の波長刺激はそれぞれ別々の視神経-脳・末梢神経を経由する信号として行動を制御し、その信号の比率が行動様式に影響を及ぼすと考える。この行動は仔稚魚の赤波長の強い海面からの逃避行動を示唆する。現在仔魚期のオプシン遺伝子の発現時期の解析を行っている。また孵化4日前の受精卵からの照射実験も行い、赤・青・緑の単一波長照射は初期発生を阻害しないことを確認した。更に、単一波長下で10か月飼育後の成魚で成熟精子を確認した。これらはトラフグの発生・成長・成熟において、3波長の全てが必要ではない事を示した。 赤色のストレス性成長阻害には成長ホルモン(GH)が関わっている可能性があり、脳下垂体でその発現分布をIn situ hybridization法により解析している。成魚のGH発現細胞の近燐ではエストロゲン合成を担うアロマターゼ発現細胞が局在していたので仔稚魚において現在アロマターゼとGH分泌との関係を調査している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
水中ビデオ撮影により赤・青・緑の各色波長に依存したトラフグ仔稚魚の特異な行動パターンをほぼ明らかにした。しかし、この行動がどのような生理反応によって引き起こされてるのか、その解析が進んでいない。赤色の照射(あるいは青・緑色の消失)は稚魚に不安行動やストレスを与えると考えられるので、①赤オプシン遺伝子の発現時期と発現細胞の同定と、②ストレスの指標となるホルモン(ニューロステロイド)と分子マーカーの探索が必要である。特に②に関しては仔稚魚では脳組織が小さく解析が難しいため実験が進まず、現在数か月以上単一波長で連続照射した成魚を用いて実験を代行している。また、各照射区の稚魚の脳内各部位から雌雄別にRNAを抽出するのに時間がかかっており研究の遅れとなっている。現在仔稚魚で解析できる方法としてBrdU取り込みによる細胞分裂頻度を測定している。1年に1回しか実験ができないため成果が出るのは秋以降となる。
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今後の研究の推進方策 |
色波長の切り替えおよび波長の混合比率が、トラフグ仔稚魚にストレス性の行動を誘導する事が明らかになった。トラフグ仔稚魚および成魚の網膜・脳・脳下垂体を介した神経回路・内分泌回路ではどのような生理反応が起きているのか興味がある。仔稚魚では各照射区でBrdU取り込み実験により細胞分裂頻度の測定・解析を行いストレス度との関係を調査する。また、成魚においては3ヶ月以上赤・青・緑の単波長で飼育を継続後、照射する色波長を切り替え、どのようなストレス性の反応が起きるのかを、血清ホルモン(テストステロン等)と脳内ニューロステロイド代謝遺伝子の発現を継時的に測定・解析する。魚類の生殖行動などの生理反応は光や色の刺激が必要である。このような刺激直後にどのような化学反応が網膜・視神経および脳内で起きているのかを調べることは重要と考える。トラフグを用いた本研究が魚類の光環境刺激機構の分子的解明の糸口になることが期待できる。また、ストレスや攻撃行動と脳内エスロゲンの関係は近年盛んに研究が行われている。今後トラフグを用いた本照射実験をストレス反応のモデルとして構築できないか検討を行う。
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