魚類は生息する様々な環境に適応するため、眼の構造及び視物質の種類や吸収波長を変化させてきた。近年,養殖現場においても光環境の利用が進んでいる。例えばブリでは赤い光,ニジマスやクロマグロでは緑色光が成長を促進する。また、カレイ目のマツカワでは緑色の光が成長を促進し、赤色光下で雌の割合が高くなる。仔魚期では数種においてオプシン(視物質)の発現変動が確認されているものの、光や色波長の行動や成長への影響についてはほとんど解明されていない。トラフグは攻撃性の高い魚種で,仔稚魚期の共食いによる減耗が激しく、また赤・青・緑の3原色の単純なオプシン遺伝子構成を持つので、色波長の効果を解析するのに都合が良い。現在までのLEDを用いた複数回の飼育実験により、赤色光と青色・緑色光は真逆の性質を持つ波長であり、赤色が特徴的な壁をつつく行動を誘起し、結果として初期減耗を誘導することを示した。しかし暗黒下での行動観察はなく、光・色の仔魚行動への影響に関する明確な結論が得られていなかった。最終年度は遠赤外線による(暗黒下での)トラフグ仔魚の行動観察を行い、青色(input)は光のない暗黒シグナルと同様の行動(output)を誘導する波長であり、また逆に赤色はストレス様行動を誘導する波長であることを証明した。更に免疫組織化学法を用い攻撃行動の要因と考えられる脳内エストロゲンの合成酵素であるアロマターゼが、脳神経の発達期である孵化後3週令ラジアルグリア細胞ですでに検出できることを確認した。オプシンの遺伝子発現をRT-PCR法で解析中であり、仔魚期での行動と対応を調査している。 本研究により、色波長が仔魚の行動生態に重要な役割を果たすことを、実験レベルで初めて示すことに成功した。応用としては、色波長を用いたストレスに強い魚の選抜育種や減耗の少ない育種法への開発が期待できる。
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