環境制御によるウナギの成熟促進技術の開発を目的として、環境因子のうち、これまで全く考慮されなかった水槽飼育中の音響環境がウナギの成熟・産卵に及ぼす影響を明らかにし、これらの実験から得られた成果をもとに、人為的なホルモン投与によらないウナギの自然成熟・産卵誘導を目指す。平成25年度はウナギの生息域や飼育水槽内の音響環境をハイドロフォンと録音機を用いて測定した結果、生息域は静穏な環境であったが、飼育水槽内は種々の騒音があることが判明し、これが水槽内でのウナギの成熟に悪い影響を与えていると考えられた。そのため、平成26年度には、水槽内を静音な環境を維持できる水槽の設計を行い、エアレーションの音や水槽への注水に伴う騒音を防ぐことに成功し、自然の生息域に近い静穏な環境の飼育水槽を作成した。さらに、この水槽を用いて、静穏環境、騒音環境、および音楽環境で雌ウナギを2週間飼育したところ、成熟に係わる血中エストラジオールやテストステロン量が騒音環境で飼育したウナギに比較して静穏環境やモーツアルトの楽曲を継続して流した音楽環境水槽で飼育したウナギの方が、有意に高い値を示した。この結果、音響環境が雌ウナギの成熟に影響を及ぼす可能性が初めて示された。そこで、平成27年度及び平成28年度は、実験の再現性を確認するために、同様の音響環境で、2ヶ月間雌ウナギを飼育した。その結果、静穏環境、騒音環境および音楽環境で飼育したウナギの生殖腺体指数や卵母細胞の卵径は実験群間で差は認められなかった。むしろ、実験開始時対照群と比較すると卵径が減少していた。これらの結果から、音響環境は、飼育しているウナギにとって、飼育の初期段階で成熟にある一定の良好な影響を及ぼすものの、長期間飼育では音響環境の改善のみでは成熟促進に結びつかない可能性が示された。
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