研究課題
挑戦的萌芽研究
シロウリガイ類など体内に化学合成細菌を共生させる化学合成生物群集は、硫化水素やメタンといった還元的な化学物質の酸化エネルギーを共生微生物が利用することで、一次生産エネルギーを獲得している。化学合成生物群集における、宿主-共生微生物間の相互作用や、共生微生物の代謝に関する研究は、宿主細胞と共生微生物をそれぞれ単離培養する事が極めて困難な点から、ほとんど進められていなかった。本研究では、1)シロウリガイ類の体内に共生する化学合成細菌を、透明なITO電極基板上へ電気的に誘引付着させる技術。そして、2)電極基板上に付着した化学合成細菌を剥離回収する技術。上記2つの技術を開発した。相模湾初島沖の深海底で捕獲したシマイシロウリガイから、エラ組織を切り出した後70%エタノールでエラ組織を10-30秒間殺菌する。殺菌後、4℃人工海水でエラ組織をすすいだ後、3種抗生物質を含む人工海水中で、1mm3以下になるまで組織片をメスで切り刻む。エラ組織断片を石英乳鉢ですりつぶした後、4℃人工海水に分散させた。このエラ組織懸濁液を3電極培養系に移し、銀/塩化銀電極電位に対して-0.3Vの定電位を2時間4℃にて印加する。定電位印加2時間後、電極表面を4℃人工海水で洗い流し、銀/塩化銀電極電位に対して±10mV, 9MHzの三角波電位を20分間印加することで電極基板上に付着した共生菌を剥離回収する。電気的な付着剥離プロセスを再度繰り返すことで、SYTO9およびPI(プロピディウムヨーダイド)の二重染色によって膜損傷が確認されず、さらにデヒドロゲナーゼ活性を有する状態のシマイシロウリガイ共生菌を得る事に成功した。また、日刊工業新聞朝刊1面(2014年4月16日)に、本研究の関連記事が掲載された。
2: おおむね順調に進展している
-0.3V vs. Ag/AgClの微弱電位を印加したITO電極上に付着した菌体が、シマイシロウリガイ共生菌Candidatus Vesicomyosocius okutaniiであることを、FISH解析および16S-rRNA遺伝子による解析から明らかとした。Candidatus Vesicomyosocius okutanii のアンチセンスプローブを利用したFISH解析から、DAPIで染色された電極上の微生物のうち98.6%(204/207)がシマイシロウリガイ共生菌であることを明らかとした。さらに電極上に付着した共生菌について、SYTO9およびPIの二重染色による膜損傷の検出、および、デヒドロゲナーゼ活性による生死判別を調査した。その結果、電極基板上に付着した共生菌の99%(285/288)は膜損傷が検出されず、さらに細胞内デヒドロゲナーゼ活性を有することを明らかとした。以上から、本研究はおおむね順調に進展している。
共生微生物の電気化学的な回収法について、本研究では、シマイシロウリガイ共生菌Candidatus Vesicomyosocius okutaniiで実験を進めている。そのため、共生微生物の電気回収が、シマイシロウリガイの共生菌のみで可能な手法であるのか、あるいは、多種多様な共生微生物にも応用が可能な基盤技術なのかを、明らかとしていない。今後は、シマイシロウリガイ共生菌だけでなく、各種海綿動物の共生菌や、ヒラノマクラAdipicola pacificaの共生菌、珊瑚類や、シンカイヒバリガイ類、ハオリムシ類の共生菌などにおいても、共生微生物の電気化学的な回収が可能か検討する。さらに、シマイシロウリガイ共生菌を含めた各種共生菌の電気回収が、凍結保存サンプルからも可能であるか、詳細を明らかとする。
予定より低額で物品を購入できたため。翌年度の物品購入に付け加えて使用する。
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バイオサイエンスとインダストリー
巻: 71 ページ: 533-535
Mar Biotechnol.
巻: 15 ページ: 461-475
DOI 10.1007/s10126-013-9495-2