本パネルの問題意識は、日本には国際的にみても林野コモンズについての歴史的記録が膨大に残されており、そうした記録を用いたコモンズ研究あるいは集合行為研究を行うことが必要ではないかという点にある。さらにこうした問題意識の背景には、すでに古典ともいえるOstrom(1990)やその後の数多くのコモンズ研究(Poteete et al. 2010)のなかで、統計的な意味で多数のコモンズを同時に分析対象にするラージN研究を志向する研究が増えてきているものの、歴史的な記録を用いたラージN研究はほとんど行われていないという研究の現状に対する挑戦という意味合いがある。さらに言えば、本パネルにおいてそれに成功したか否かはさておき、集合行為やその成否を決めると考えられている社会的状況の変化についてのラージN研究によって、集合行為の因果の解明に近づこうとする意図がある。つまり、集合行為とその因果の変化を研究する際、歴史的記録に依拠するという研究戦略の有効性を問おうとしたものである。 具体的な研究成果としては,資料群のうち、岩手県庁資料の1911年頃に岩手県知事の命により収集された部落有林野統一関係資料を用いて大規模比較研究を実施した。そこでは、130件ほどの林野コモンズのデータをもとに、村々入会と一村入会による入会管理の特徴を整理し、一村入会よりも村々入会において資源不足がより多く発生する傾向があること、また、村々入会において何らかの制限(あるいは制度)が設けられる傾向があることなどを明らかにした。
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