水田は強力な温室効果ガスであるメタンの最大人為発生源の一つである。メタンは嫌気的な水田土壌中で生成されるが、多くはイネの通気組織を経由して大気へ放出されると考えられている。しかし、その物理的な輸送メカニズムは殆ど分かっていない。本研究課題では、「同位体分別効果」を活用することで、イネを通るメタンの拡散・移流メカニズムを調べ、メタン放出量の変動に輸送過程がどのように寄与するかを明らかにすることを目的とした。 前年度に引き続き平成26年度も安定同位体比質量分析計の前処理ラインを改良し、メタンの炭素安定同位体比を高精度かつハイスループットで分析できるラインを作成した。これにより、これまで不可能だった多検体の分析が可能となり同位体を用いた研究を飛躍的に進める基盤が整った。 実際の水田で自動開閉チャンバを用いて放出されたメタンを採取し分析したところ、メタンの同位体比は生育中期以降に大きな日変動を示していた。このことから、この時期の数倍に及ぶメタン放出量の日較差は、拡散による定常的な輸送に加えて移流による大きな放出が加わることが主な要因であることが示唆された。一方、生育前半は放出量の大きな日較差は見られず、安定同位体比にも日変化は見られなかったことから、シーズン前半の放出量が少ない時期は、拡散による輸送が卓越することが示唆された。このように生育途中で大きくメタンの放出メカニズムが変化する理由は今のところ不明であり、今後は土壌中のメタンの存在形態やイネの生育ステージや組織形成などとの関係を解明する必要がある。
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