農作業における死亡事故件数は年間400件にも上り,特に農業機械による事故が多い。近年,多くの研究者がその対策に取り組んでいるが,作業者の安全意識や操作に依存しているのが現状である。本研究は,農作業事故防止のため,医学分野の生体情報測定技術を応用した次世代のセンシング技術の開発を行うものである。平成26年度は,前年度の調査に基づいて,事故防止に有効であると考えられる生体情報として,脳波と脈波を取り上げた。脳波については,室内において市販のゲーム機を利用し,視覚と聴覚への刺激による脳波の瞬間的な波形変化と時間を調べ,それらの特性を検討した。その結果,前頭葉において0.15~0.2秒と迅速に高強度の異常波形が取得可能であることを示し,0.5秒以上の所要時間を要する緊急停止ボタンの押下よりも速く信号が出力可能であることを示した。また,前頭葉における脳波波形においては性別差が無いこと,年齢が高いほど僅かに時間を要することなどを示した。また,視覚のみにおいてはストロボを利用して,聴覚のみにおいては農機のホーンを用いて,同様に反応時間を調べた。その結果,視覚・聴覚に対する刺激と同様の結果を得て,何らかの事象による外部刺激に対して,脳波から迅速に異常波形を取得することが可能であることを示した。一方,脈波についても同様の実験を実施した。その結果,0.3~0.5秒程度で異常波形が検出される場合が認められた。しかしながら,脳波よりも反応時間を要すること,脈波特有の波形との重複により異常波形を抽出するフィルターに課題があることが判明した。以上の結果から,農作業中の危険を伴う事象を含む生体反応の信号取得が一定の水準で可能であることを示すことができたと考えられる。
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