オオムギ種子を用いて、ナノバブルが発芽率に及ぼす影響を検討した。ナノバブル水の溶存酸素濃度は純空気と純窒素の混合割合を調節してバブルを発生させることにより、溶存酸素濃度が約9 mg/Lのコントロール(蒸留水)と同程度に調整した。いずれの区も100粒の種子を25℃でナノバブル水及び蒸留水に浸漬した。その結果、ナノバブル水に浸漬した種子の発芽率が15-25%向上するという、顕著な影響が示された。
この理由は、発芽に関わる酵素活性と吸水を左右する水の流動性に差異が生じたためと考えられた。そこで、種子内のプロトン横緩和時間T2を測定した結果、T2は長い成分T2aと短い成分T2bに分かれた。いずれの成分も、ナノバブル水に浸漬した種子の方が緩和時間が長い結果になった。プロトン緩和時間がは、水素結合や分子の流動性などの弱い分子間相互作用の検出に利用される。このことから、ナノバブル水に浸漬した種子内の水の流動性が高くなっていることが推察された。これは、発芽率向上の1つの要因であると考えられる。
一方、発芽率が向上するメカニズムとして、(1)ナノバブルにより外生のROS (・OH)が発生、(2) これがシグナル分子となり、内生のROS (O2・-) が発生、(3) デンプン分解酵素が生成、(4) 種子の発芽・幼根の生長促進、というプロセスを考えた。この仮説に基づき、ナノバブルによるROSの発生の有無を、蛍光試薬APFを用いて検討した。蛍光試薬APFは・OHと反応して蛍光を発するので、励起波長490 nm、蛍光波長515 nmの蛍光強度を比較したところ、酸素ナノバブル水の蛍光強度がコントロールより約20(相対値)高い値を示した。これは、ナノバブルによる・OHの発生を意味しており、外生のROSがシグナル分子となって種子内の活性酸素発生を誘導し、発芽が促進されたことが推察された。
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