研究課題/領域番号 |
25660212
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
奥田 潔 岡山大学, その他の研究科, 教授 (40177168)
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研究分担者 |
井上 直子 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (90377789)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 黄体退行 / アポトーシス / リンパ管 |
研究概要 |
多くの哺乳類において排卵後の卵巣に形成される黄体は、黄体ホルモンを分泌することで雌の体を妊娠可能にする。妊娠に至らなかった場合、黄体は卵巣から消滅し (黄体退行)、妊娠可能な状態が解除され、次の排卵が起こる。このように妊娠していない哺乳動物の卵巣では、黄体の形成と消失が絶えず繰り返され排卵周期が保たれている。これまで黄体退行は、黄体を構成する黄体細胞のアポトーシス (プログラムされた細胞死) とアポトーシスを起こした細胞を免疫細胞が貪食することによると考えられてきた。 本研究では、黄体組織内リンパ管における黄体細胞マーカー陽性細胞の存在ならびに卵巣から採取されたリンパ液中における黄体細胞マーカー陽性細胞の存在を確認した。また、リンパ液中に観察される黄体細胞数は黄体退行期に急激に増加することを明らかにした。 以上のことから「黄体細胞がリンパ管を通じて卵巣から流出する」という新規の黄体退行メカニズムを見出した。さらにリンパ液中に観察された黄体細胞は生存しており、生きた黄体細胞による黄体退行機構の発見はこれまでの定説であった黄体細胞のアポトーシスに依存していた黄体退行概念に大きなインパクトを与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
黄体退行時に正常な黄体細胞がリンパ管を通じて卵巣外へ流出することによって黄体が卵巣から消失することを証明した成果は、これまでの「黄体の消失は、黄体細胞のアポトーシスとアポトーシスを起こした細胞を免疫細胞が貪食することによる」という説明(常識)を覆すものであり、国際学会においても多くの議論をよび、国際的ジャーナル(PLoS ONE)に掲載され高く評価されている。また、朝日新聞をはじめとする新聞にプレスリリースされた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は黄体細胞のリンパ管を介した流出機構の解明をテーマとし、細胞接着崩壊の観点から研究を進める予定である。 リンパ管を介した組織からの細胞流出はガン細胞転移過程において観察される。この時ガン細胞は細胞を組織に接着・固定している細胞外基質に対する分解酵素である matrix metalloproteinases (MMPs) を自身が合成・分泌し、組織より遊離したガン細胞がリンパ管に流入することで転移する。昨年度の本研究によって明らかにされたリンパ管を介した黄体退行過程においても、黄体細胞が黄体組織から遊離することが必須である。申請者は「黄体退行時に黄体細胞が MMPs を合成・分泌し、黄体組織から黄体細胞が遊離することでリンパ管へ流入する」という仮説を立て研究を進めており、すでにウシ黄体より単離した黄体細胞における MMPs mRNA 発現を確認した。ウシにおいて黄体退行を誘導する物質は幾つか知られており、本研究では子宮から分泌され黄体退行のトリガーとして知られるプロスタグランディン、退行時に黄体組織に流入したマクロファージが分泌する腫瘍壊死因子ならびにインターフェロンに着目し、黄体細胞における MMPs 発現に及ぼすこれらの物質の影響を検討する。 得られた結果は 2014 年度に開催される日本繁殖生物学会 (帯広、8 月) において発表する予定である。また同年度に論文にまとめ発表する計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画にある組み替え体マウス用いた予備実験をスタートさせなかったため、それに必要であった消耗品類の購入は行わず、次年度使用額が生じた。 平成26年度には組み替え体マウス用いた研究をスタートさせるため、25年度に未使用であった金額をすべて組み替え体マウス用いた研究に必要な消耗品などの購入に充てる予定である。
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