多くの哺乳類において、排卵後の卵巣には妊娠の成立と維持を担うプロジェステロンを分泌する黄体が形成される。非妊娠時の黄体の消失 (黄体退行) は次の排卵を誘起するために必須であり、黄体を短時間で消失させることは哺乳類が効率的に繁殖の機会を得る上で重要な生殖戦略である。これまでに黄体退行機構に関する多くの研究が成されてきたが、“極めて短い時間’’で一つの組織が消失する機構は未だ明らかでない。本研究は、黄体組織消失 (構造的黄体退行) 機構における「未知の経路」の存在を明らかにすることを目的に実施された。 初年度(H25年度)は黄体細胞が黄体退行期にリンパ管へ流出すること、また流出した黄体細胞は生存していることを明らかにした。また、リンパ管を介した黄体細胞の流出が最も活発になる時期は、黄体組織が卵巣上から完全に消滅する時期と一致した。これらの結果から、リンパ管を介した黄体細胞の流出という新たな黄体退行経路が明らかとなった。黄体細胞が黄体から流出するためには、退行期に黄体細胞が黄体組織から脱接着する必要がある。 そこで H26 年度は黄体退行誘導因子として知られる prostaglandin F2alpha および interferon-gamma は黄体細胞における metalloprotease-1 (MMP-1) mRNA 発現を強く刺激することを明らかにした。実験的な MMP-1 の黄体組織への還流によって黄体細胞が還流液中へ出現することから、黄体退行誘導因子が黄体細胞流出を制御していることが示唆された。
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