研究課題
挑戦的萌芽研究
残留性有機汚染物質(POPs)やビスフェノール類(BPs)の一部は、エストロゲン受容体(ER)を活性化することで本来のエストロゲンの応答をかく乱することが知られている。一方、環境汚染物質によるERへの作用には種差が存在する。水棲哺乳類は、水圏生態系の頂点に位置するため、これら環境汚染物質を高濃度に蓄積する。しかしながら、環境汚染物質曝露による水棲哺乳類ERシグナル伝達経路への影響に関する知見は欠如している。そこで本研究では、環境汚染物質の潜在的なリスクを評価するため、バイカルアザラシのERを介した影響のスクリーニング法の構築を試みた。バイカルアザラシERαおよびERβ cDNAの単離に成功した。次いで、バイカルアザラシERαおよびERβ発現ベクター、ER標的遺伝子の5’上流域に存在するER応答配列を含むレポーターベクターをCOS-1細胞に導入し、in vitro レポーター遺伝子アッセイ系を構築した。このCOS-1細胞を環境汚染物質で処理し、レポーター遺伝子活性を測定することで、ER転写活性化能を評価した。またアザラシERsの機能的特性を理解するため、マウスERα・ERβについても同等のアッセイ系を構築し、同じ環境汚染物質による転写活性化能を測定した。BPs 26種についてER転写活性化能をスクリーニングしたところ、分子量が小さく、フェニル環のpara位に付くOH基置換数が多い物質ほど高活性を示す傾向が認められた。次に、EC50とLOECを指標にERα・ERβのアイソフォーム間で結果を比較したところ、各化学物質のEC50・LOECはアザラシ・マウス両種ともに同等、もしくはERαの方が低値を示す傾向がみられた。また、アザラシとマウスの種間で転写活性化能を比較したところ、ERαについてはマウスが高感受性、ERβについては同等もしくはアザラシが高感受性である傾向が認められた。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度は、バイカルアザラシエストロゲン受容体(ER)であるERαおよびERβ cDNAの単離に成功した。バイカルアザラシERαおよびERβ発現ベクター、ER標的遺伝子の5’上流域に存在するER応答配列を含むレポーターベクターをCOS-1細胞に導入し、in vitroレポーター遺伝子アッセイ系を構築することができた。その際、発現ベクターの量や細胞への導入条件などを検討し、感度の最適化をおこなった。またリガンド濃度依存的なバイカルアザラシER -ER応答配列(ERE)を介したシグナル伝達経路へ影響についても検討できた。さらに、マウスERα・ERβについても同等のアッセイ系を構築し、同じ環境汚染物質による転写活性化能も測定した。今年度成果が当初の計画以上に進展したと考える理由は、ビスフェノール類(BPs)26種についてER転写活性化能をスクリーニングし、構造活性相関があることまで示唆できたからである。構造活性相関モデルはまだ改善の余地はあるが、ここまで研究が進展するとは研究開始時には予想していなかった。
本研究の結果、ビスフェノール類(BPs)を含む多様な環境汚染物質がバイカルアザラシエストロゲン受容体(ER)-ER応答配列(ERE)を介したシグナル伝達経路へ影響することが示唆された。次年度は、BPsを含む環境汚染物質のバイカルアザラシER-EREを介したアンタゴニスト活性についても調査する予定である。また、in silico で環境汚染物質とERのドッキングシミュレーションをおこない、 ER転写活性化能の定量的構造活性相関(QSAR)モデルを構築するとともに、ERアイソフォーム差・生物種差が生じる分子メカニズムについても究明する予定である。さらに、ER転写活性化能を指標とした複合汚染の影響を評価することも計画している。これらの研究を推進することにより、ER-ERE を介したシグナル伝達経路へ影響する化学物質の構造的特徴を解明することや、種差を規定する感受性因子を特定することが期待できる。
バイカルアザラシおよびマウスERαおよびERβを発現させたin vitro レポーター遺伝子アッセイ系の実験条件検討が予想以上に速やかに終了したため。当初の計画より精度の高い構造活性相関モデルを構築するために、in vitro レポーター遺伝子を用いてアッセイする化学物質の種類を増やすことで、繰り越した予算を使用する予定である。また、ERを介したアゴニスト活性に加え、アンタゴニスト活性についても調査することを計画している。
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