研究課題
昨年度は、バイカルアザラシエストロゲン受容体(ER)アイソフォーム(bsERα・ERβ)に対して、多くのビスフェノール類(BPs)がアゴニスト活性を示すことを報告した。今年度は、17β-エストラジオール(E2)共存下でbsERsを介したBPsのアンタゴニスト活性を評価した。またbsERsの種特異的機能を理解するため、マウスERs(mERs)についてもアンタゴニスト能を評価した。加えて、ERsの3Dホモロジーモデルを構築し、BPsとERsの結合状態をin silicoでシミュレーションした。まずレポーター遺伝子アッセイでスクリーニングしたところ、多くのBPsはE2共存下ではアンタゴニスト活性を示した。興味深いことに、これらBPsの多くは、E2非共存下ではアゴニスト活性を示した。BPsによるアンタゴニスト活性はERアイソフォーム間やアザラシ・マウス間で差が認められた。次いで、アンタゴニスト活性を示した4,4'-(1-methylethylidene)bis(2-methylphenol)(BPC)と4,4'-(2,2-dichloroethenylidene)bisphenol(BP C2)を対象として、アンタゴニスト活性の用量ー応答関係を解析した。BPC処理の結果、bsERsに対してBPCは弱いアンタゴニスト作用を示したが、mERsに対して有意な作用は示さなかった。一方、BP C2はBPCよりも100-1000倍低濃度で転写活性化能を抑制した。次にBPCとBP C2のアンタゴニスト作用の差を解明するために、両物質の結合状態をin silicoシミュレーション解析した。その結果、BP C2の相互作用エネルギー値はBPCの値よりも低かった。これらの結果は、in vitroアッセイで得られた、BPCの弱いアンタゴニスト活性と、BP C2の強いアンタゴニスト活性の結果を支持した。
1: 当初の計画以上に進展している
昨年度開発したバイカルアザラシエストロゲン受容体(ER)アイソフォーム(bsERα・ERβ)レポーター遺伝子アッセイ系に、E2と26種のビスフェノール類(BPs)をそれぞれ単独で共処理し、レポーター遺伝子活性を測定することで、bsERsのアンタゴニスト活性を評価した。またbsERsの種特異的機能を理解するため、マウスERsについてもアンタゴニスト能を評価した。加えて、分子シミュレーションソフトを使用してERsの3Dホモロジーモデルを構築し、BPsとERsの結合状態をin silicoでシミュレーションした。今年度は、BPsはERsに対しアゴニスト活性だけでなく、アイソフォーム・種特異的なアンタゴニスト作用も有することが明らかとなった。また、BPsとERの特定のアミノ酸との結合状態をin silicoシミュレーション解析することで、ERとER応答配列(ERE)の相互作用を介したアゴニスト活性・アンタゴニスト活性を判別できる可能性が示唆された。BPsとERの相互作用をin silicoでシミュレーションすることは当初の研究計画では想定しておらず、こうした結果は予想していなかった。
本研究の結果、ビスフェノール類(BPs)が17β-エストラジオール(E2)共存下でバイカルアザラシER -ER応答配列(ERE)を介したシグナル伝達系の応答を抑制することが示唆された。次年度は、BPsと化学構造が類似している環境汚染物質の水酸化代謝物による応答についても調査する予定である。また、in silico で水酸化代謝物とERのドッキングシミュレーションをおこない、 ER-ERE転写活性化能の定量的構造活性相関(QSAR)モデルを構築したい。さらに、バイカルアザラシだけでなくマウス・ヒト・イヌのERについても同様の試験をおこない、バイカルアザラシERの種特異的リガンド選択性についても検討し、ERアイソフォーム差・生物種差が生じる分子メカニズムについても究明する予定である。
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