研究課題/領域番号 |
25660231
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
乾 隆 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (80352912)
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研究分担者 |
石橋 宰 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (70293214)
西村 重徳 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (90244665)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 寄生虫 / 人獣共通感染症 / 酵素 / 薬剤反応性 / 獣医学 / 有機合成 / X線結晶構造解析 |
研究概要 |
本申請研究は,Trypanosoma brucei(T. brucei)由来GMP reductase(TbGMPR)を標的としたアフリカ睡眠病の新薬開発を目的とし,酵素反応速度論的解析,GMPR阻害剤であるribavirinとそのアナログの合成と薬効評価,TbGMPRおよびTbGMPR/ribavirinアナログ複合体のX線結晶構造解析を行い,アフリカ睡眠病に対するリード化合物を見出すことである。 平成25年度は,研究計画に従い,TbGMPRおよびウシ由来GMPR(BtGMPR)の反応速度論的解析(kcat,Kmの算出),それぞれのGMPRに対するribavirin 5'-monophosphate(RMP)のIC50値および阻害定数(Ki)を得た。 一方,RMPのアナログ化合物が新規抗Trypanosoma薬の開発につながると期待されるが,RMPを出発原料とするには高コストである。そこで本研究では安価で取り扱いやすいribavirinからRMPの有機化学合成を行い,収率55.4%,純度97.0%でRMPの合成に成功した。 さらに,構造を基にしたTbGMPR阻害剤の開発のために,TbGMPRの大量発現系の構築と結晶化を行った。TbGMPRのホモロジーモデリング等により,TbGMPRが有するcystathionine β-synthase (CBS) domainが結晶化の妨げになると予想し,CBS domain欠損変異体(ΔPhe97-Leu203)と(ΔPhe97-Arg226)を設計した。pET systemを用いた大腸菌発現系でこれらの変異酵素を発現し,各種クロマトグラフィーにより,約10 mg/Lの精製酵素を得る系を確立した。精製酵素から三次元結晶を得るために,市販の結晶化スクリーニング試薬を用いた結晶化条件の探索を行い,いくつかの結晶化条件で微結晶が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記載のように,平成25年度は,1)酵素反応速度論的解析,2)医薬候補化合物の合成,および3)X線結晶構造解析に必要な各種酵素の大量精製系を確立を目指しており,1)~3)のすべての項目において良好な結果が得られている。 1)の酵素反応速度論的解析では,予定されたすべてのパラメータが決定された。さらに,宿主の1つであるヒト由来GMPR(HsGMPR1およびHsGMPR2)の組換え体の精製にも成功し,それらの酵素反応速度論的解析も行うとともに,RMPによる阻害効果がTbGMPRと比較して弱いことも確認できた。 2)の化合物の合成では,ribavirinを出発物質としたRMPの合成に成功した。これにより,安価でRMPアナログの合成が可能になると期待できる。また,合成したRMPの各種GMPRに対する阻害効果は,市販品RMPと同等であった。 3)のX線結晶構造解析に必要な各種酵素の大量精製系を確立は,CBS domain欠損変異体に関して,大腸菌培養液1 Lあたり10 mgの精製酵素を得ることができる計の確立に成功した。これまで,TbGMPRの収率は,< 0.5 mg/Lであったことを鑑みると20倍以上の大量精製系が構築できたといえる。 以上より,本申請研究は,概ね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は,申請書の計画通りに本研究課題を推進する。 1)酵素の結晶化条件の検討,結晶構造解析,およびRibavirin類縁体の作製と薬効評価を行う。TbGMPR,BtGMPR,およびそれぞれの酵素にRMPが結合したRMP/酵素複合体の結晶構造を明らかにする。これまでに,2種類のヒト由来GMPRの結晶構造が報告されているので,これらの報告を参考にして,TbGMPR,およびBtGMPRの結晶化条件を検討する。結晶化条件の検討にはMolecular Dimensions社の結晶化スクリーニングキットを用いる。結晶化に成功した場合,大型放射光施設SPring-8において,X線照射による結晶の回折データを回収し,ヒト由来GMPRをサーチモデルとした分子置換法によって位相を決定後,立体構造の精密化を行う。 2)RMP類縁体の作製と薬効評価では,昨年度合成に成功したRMPを出発物質とし,RMPアナログを合成し,化合物ライブラリーを構築する。一方,分子モデリングシミュレーションソフトAutoDockを用いて,TbGMPR,BtGMPR,あるいはHsGMPRの立体構造と化合物のドッキングモデルを作成する。分子動力学計算ソフトAMBERを用いて,ドッキングモデルにおけるTbGMPRと化合物,およびBtGMPRと化合物の結合自由エネルギーを計算し,TbGMPRに対して結合親和性が高く,BtGMPRやHsGMPRに対して弱い化合物を選定する。申請者らは,T. brucei培養系による化合物の抗トリパノソーマ活性評価法,およびT. brucei感染ラットを用いた化合物の薬効評価法をすでに確立しているおり,本評価法によりドッキングシミュレーションによって選定された化合物のin vitro,およびin vivoにおける薬効を検証する。
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