研究課題
本申請研究の目的は,Trypanosoma brucei(T. brucei)由来GMP reductase(TbGMPR)を標的としたアフリカ睡眠病の新薬開発を目的とし,酵素反応速度論的解析,GMPR阻害剤であるribavirinとそのアナログの合成と薬効評価,TbGMPRおよびTbGMPR/ribavirinアナログ複合体のX線結晶構造解析を行い,アフリカ睡眠病に対するリード化合物を見出すことである。まず,立体構造を基にTbGMPR阻害剤を開発するために,X線結晶構造解析を行った。なお今年度は,結晶化の妨げになると予想されたcystathionine β-synthase domainを欠損させた変異体(ΔPhe97-Arg226)について結晶化条件の探索を行った。結晶化母液に0.1 M HEPES(pH 7.5),0.8 M リン酸一ナトリウム,0.8 M リン酸一カリウムを用い,温度 20℃におけるsitting drop蒸気拡散法により,構造解析に適した結晶を得ることに成功した。本結晶をSPring-8 BL38B1において,分解能2.36ÅでX線回折データを収集し構造計算を行ったところ,結晶学的 R-factor が 19.2%,およびfree R factor が 24.3%まで精密化することができ,TbGMPRΔPhe97-Arg226の立体構造を明らかにすることができた。一方,宿主であるヒトGMPR(HsGMPR1およびHsGMPR2)の精製および反応速度論的解析を行い,T. brucei型とヒト型との酵素化学的諸性質の比較を行った。その結果,T. brucei型とヒト型では基質や補酵素に対する親和性が異なることが明らかとなり, 両者の活性中心の構造が異なることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
「研究実績の概要」に記載のように,平成26年度は予定どおりTbGMPRのX線結晶構造解析および酵素反応速度論的解析を中心に行った。TbGMPRの構造解析においては,cystathionine β-synthase domainを欠損させた変異体ΔPhe97-Arg226の立体構造解析を試み,X線結晶構造解析に適した結晶を再現性良く作製する方法を確立するとともに,当初の計画通り,TbGMPR阻害剤を開発するために必要なTbGMPRの立体構造を分解能2.36Åで明らかにすることができた。一方,宿主であるヒトGMPR(HsGMPR1およびHsGMPR2)の精製および反応速度論的解析を行い,TbGMPRとHsGMPR1およびHsGMPR2では基質や補酵素に対する親和性が異なることを明らかにし,活性中心の構造が異なることを示すことができた。T. brucei型とヒト型におけるこれらの違いは,TbGMPR選択的阻害剤を設計する上で大きなアドバンテージとなる。また,GMPR阻害剤であるribavirinを出発物質としたribavirin 5'-monophosphate(RMP)の合成では,その収率が55%から60%へ上がり,より安価でRMPアナログの合成が可能となった。さらに,より強い抗原虫作用を示すribavirin誘導体のスクリーニング系を構築することを視野に,血流型T. bruceiの培養系を構築し,ribavirinに対するIC50値を求めた結果,ribavirinはT. brucei brucei,およびT. brucei gambienseに対しても増殖を抑制することが判明し,IC50値は1~10 μM 程度であった。以上より,本申請研究は,概ね順調に進展していると判断できる。
平成27年度は,申請書の計画通りに本研究課題を推進する。昨年度までの研究成果により,TbGMPRΔPhe97-Arg226のアポ状態における立体構造を明らかにした。本年度は引き続き,TbGMPRに対して基質であるGMP,あるいはNADPHが結合した酵素基質複合体,あるいはリバビリンやリバビリンアナログなどの阻害剤が結合した酵素阻害剤複合体の立体構造の解明を目指す。酵素基質複合体の構造を観察するために,触媒残基であるCys318をAlaに置換し,触媒活性を欠失させたTbGMPRを作製し,構造解析に利用する。アポ状態,および複合体中でのTbGMPRの立体構造情報を用いて,分子モデリングシミュレーションソフトAutoDockなどを利用し,化合物ライブラリーに対するin silicoスクリーニングを行う。また,ヒト由来HsGMPRやウシ由来BtGMPRなど他の宿主由来GMPRについても同様のスクリーニングを行い,TbGMPRに特異的な化合物を探索する。そこで得られた化合物情報に基づき,ribavirin,あるいはRMPを出発物質としたTbGMPR阻害剤(RMPアナログ)の合成を試みる。さらに,合成されたRMPアナログについて,in vitro,およびin vivoにおける薬効を検証する。申請者らはすでに,抗原虫活性を評価するための,in vitroにおけるT. brucei培養評価系,およびin vivoにおけるT. brucei感染ラットを用いた化合物の薬効評価系を確立しており,設備などにも問題はない。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (26件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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http://www.bioinfo.osakafu-u.ac.jp/~inuit/