研究実績の概要 |
通常の成熟犬赤血球はNa,K-ATPaseを持たず細胞内イオン組成が低K+となるLK型である。ところが柴犬等の日本犬には、Na,K-ATPaseが消失せず細胞内高K+など、幼若赤血球と類似した性質を示すHK型赤血球形質がみられる。この形質は常染色体劣性の遺伝様式をとる単一遺伝子異常である。本研究の目的はその原因遺伝子の同定と機序の解明である。 HK型個体を含む犬家系についてSNPチップを用いたゲノムワイド関連解析を実施し、その原因遺伝子座と遺伝子を特定し、同定した遺伝子産物を培養細胞に発現させて機能解析を試みた。 HK形質と相関の高いSNPは犬第12番染色体(CFA12)9.7 Mb付近に存在したことから、CFA12の9.7-10 Mbの領域にある遺伝子群についてcDNAおよび全エクソン領域の塩基配列を解読した。HK個体ではTranslocator protein 2 (TSPO2) 遺伝子にC40Y変異あるいはV89F/ΔF98/T120I (VFT) 三重変異が見出され、HK型個体を含む家系犬において変異アレルの保有状況と形質が完全に一致したことから、HK形質の原因はTSPO2遺伝子変異であり、C40Y変異アレルホモ接合あるいはVFT変異アレルとのコンパウンドヘテロ接合により生じることが明らかになった。また、TSPO2発現K562細胞においてVFT変異TSPO2蛋白質の早期の減少が観察されたことから、VFT変異TSPO2の早期分解がHK形質に関与するものと考えられた。TSPO2は細胞内コレステロール輸送に関与することから、変異型ではその機能が喪失していることが示唆された。 犬赤血球におけるHK形質の原因はTSPO2遺伝子の変異であり、TSPO2発現レベルの早期低下およびコレステロール輸送異常が形質の発現に関与するものと考えられた。
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