肺高血圧症(PH)は肺動脈内腔の狭窄や閉塞がおこり、肺動脈圧上昇や重篤な右心不全を引き起こす病態である。本質的な原因は肺血管リモデリングと考えられている。本研究はPHモデルラットを用いた分子標的薬の肺血管や心臓への効果およびイヌ肺高血圧症に対するイマチニブ長期投与の効果を検討した。ラットにMonocrotaline (MCT)を投与し、ラットPHモデルを作成した。分子標的薬のイマチニブ(5~50 mg/kg)もしくはスニチニブ(1~10 mg/kg)をMCT投与後、2週目から剖検まで毎日、経口投与した。その結果、試験薬非投与のMCT群では肺細動脈の肥厚と内腔狭窄がみられ、正常ラットに比べ右心室/(左心室+中隔壁)比が高値を示した。一方、イマチニブ(15~50 mg/kg)もしくはスニチニブ(10 mg/kg)投与群の4および6週目においては、MCT群よりも組織学的に肺血管の肥厚と狭窄が軽減され、右心室/(左心室+中隔壁)比が低値を示し、右室肥大が改善された。従って、血小板由来成長因子(PDGF)受容体阻害活性を持つ分子標的薬のイマチニブおよびスニチニブは血管リモデリングの抑制を介してPHを改善することが示唆された。さらに、肺高血圧症を呈する慢性心不全犬への低用量イマチニブ(2~3 mg/kg)の長期経口投与(6か月以上)は、臨床スコア、心拍数、収縮期肺動脈圧、右室と左室のTei index、左室流入速波形(E波)/僧帽弁輪運動速度(Em)比および血中心房性ナトリウム利尿ペプチド濃度を低下し、心拍出量を増加したことにより、心不全の改善効果を示すことを明らかにした。この効果は肺血管拡張と心筋リモデリング抑制作用を有するスタチンの効果に比べ顕著であると考えられた。本研究は肺高血圧症に対するPDGF受容体阻害作用を持つ分子標的薬の有用性を示唆した。
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