研究課題/領域番号 |
25660242
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
三角 一浩 鹿児島大学, 獣医学部, 教授 (10291551)
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研究分担者 |
帆保 誠二 鹿児島大学, 獣医学部, 教授 (60446507)
川口 博明 鹿児島大学, 獣医学部, 准教授 (60325777)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 幹細胞 / 再生医療 / 骨 / 軟骨 / 関節 |
研究概要 |
関節症の関節から採取した滑液(SF-)や滑膜組織(SM-)中の間葉系幹細胞(MSC)を体外で増幅し,高密度な浮遊液として骨軟骨欠損部に滴下・移植して欠損部に硝子軟骨の再生を図ることが目的である。 【実験1】滑液由来幹細胞(SF-MSC)について,増殖率,細胞老化に伴う特性変化,骨髄(BM-MSC)や脂肪由来幹細胞(AT-MSC)との相違点を検討した。4~5週間の培養後,1,000万個以上のSF-MSCが得られた。この間のSF-MSCの細胞倍化率は,BM-及びAT-MSCと比較して遅かった。SF-MSCの表面抗原特性(CD44,CD90,MHC-I抗体陽性,CD34、CD45抗体陰性)及び特異遺伝子発現(NanogとSox2陽性)は,BM-及びAT-MSCの結果と一致した。SF-MSCの骨・軟骨・腱・脂肪細胞への分化誘導能については,BM-及びAT-MSCに比べて,特に軟骨細胞誘導における軟骨基質の産生量が豊富であった。SF-MSCの平板培養下における軟骨分化誘導ではゲル状シートが形成される一方で,BM-及びAT-MSCでは形成されなかった。この特性は,10継代したSF-MSCでは低下していた。正常滑液は,関節症由来の滑液よりも最初得られる幹細胞の数が少なく,目標数に達するまで長い培養期間を要した。 【実験2】ブタでは滑液の採取量が限られるため,同じ細胞群の分離培養が容易かつ効率的な滑膜組織を細胞源とした。ミニブタを使用して,滑膜組織を外科的に切除し,SM-MSCを分離培養した。特異抗体を用いてCD44およびCD90陽性,特異な上記遺伝子の発現,骨・軟骨・脂肪への誘導分化を確認した。SM-MSCは3~4継代して3,000万個に達し,それを300μlのPBSで浮遊液とした。肩関節の上腕骨頭に作成した骨軟骨欠損部(外径6mm,深さ3mm)に細胞を滴下・移植し,1頭を術後2ヵ月で安楽殺としたところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,ウマの滑液・滑膜幹細胞を軟骨欠損部に適用して軟骨再生を促す治療法の開発を目的としている。 平成25年度には,ミニブタを使用して,その滑膜由来間葉系幹細胞(SM-MSC)の分離と培養を可能とし,細胞浮遊液として骨軟骨欠損部に滴下して,軟骨による再被覆を評価する計画となっている。まずブタのSM-MSCの特性を確認するために,予備実験で行ったウマのSF-MSC及びSM-MSCの特性をより詳細に解析する必要があった。関節症由来の滑液からは回収されるが,正常関節由来の滑液からも分離が可能なのか,あるいはすでに詳細な解析が進んでいる骨髄(BM-)や脂肪由来(AT-)の間葉系幹細胞(MSC)との類似性や相違点,SF-MSCの細胞老化に伴う特性変化について検討する必要があった。年度の半分は,このような観点からSF-MSCの特性解析に時間を費やした。その結果,SF-MSCを定義づける基礎的なデータ(正常滑液にも少ないが存在すること,他の幹細胞と同様な多分化能を有すること,老化に伴い分化能は低下すること)が出揃い,これらの内容は,平成26年度に国際学会へのエントリーを行い,国際誌への公表も間近にしているところである。 上記の基礎データを基に,ブタでは,SF-MSCの細胞起源と考える滑膜(SM-)からのMSCを分離し,幹細胞としての機能特性を確認した。移植に必要な細胞数(3,000万個)をPBS300 μlに浮遊させ,上腕骨頭に外形6㎜の骨軟骨欠損に移植する実験を予定通り実施することができ,すでに2か月後に安楽死して移植関節の肉眼所見を得ている。細胞を移植しなかった対照肢と明らかに異なる肉厚の軟骨用組織によって表層が被覆されていたことから,組織学的評価が待たれるところである。以上のように,来年度予定のブタによる追加試験の実施,あるいはウマにおける試験を行うための準備は整ったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は,ミニブタを用いた滑膜由来間葉系幹細胞(SM-MSC)の骨軟骨欠損部への移植,あるいはウマを用いた滑液(SF-)または滑膜(SM-)由来MSCの骨軟骨欠損への移植手術を行い,経過観察後,病理組織学的評価までを行いたいと考えている。しかしながら,実験動物の購入・飼育には高額を要するので,どちらかの動物種を用いた移植実験ができればよいと考えている。実験を遂行する上で,技術的な障害・課題はすでに解決していると考えているが,いずれの動物を飼育するにしても,長期的な観察実験になるため,実施可能な頭数,及飼育期間で行いたい。将来的には,SF-あるいはSM-MSCを用いてより広範で深部に及ぶ骨軟骨欠損の再生へと進めていければと考えている。
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