研究課題/領域番号 |
25660249
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
志水 泰武 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (40243802)
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研究分担者 |
椎名 貴彦 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (90362178)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 冬眠 / 低体温 / 生理学 / 獣医学 / ハムスター / 体温調節 |
研究概要 |
本研究の目的は、冬眠動物であるハムスターを人為的に低体温へ誘発し、維持、覚醒させる手法を確立すること、および確立した方法をラットに適用し、ラットにも冬眠の特性が見られるか明らかにすることである。 これまでのハムスターを用いた実験において、麻酔下で強制的に冷却して低体温にすると、不整脈が発生し、体温を戻しても生存しないこと、強制的な冷却で体温を低下させても、吸入麻酔を停止させると激しいふるえを起こして、自ら体温を上昇させることを明らかにしてきた。このような結果から、体温の恒常性を維持するための基準値(体温調節のセットポイント)の他に、“熱産生を放棄するセットポイント”があるのではないかと考えた。この考えを実証するために、吸入麻酔を施して低温室に放置し、体温が28~20℃まで低下したところで吸入麻酔を停止する実験を行った。その結果、22℃付近で吸入麻酔を停止すると、不整脈を発生させないでハムスターを15℃以下の低体温に誘導できることがわかった。このように低体温に導入したハムスターは、最大24時間まで維持させることが可能であり、自発的に低体温から回復する個体も存在していた。自発的な覚醒を起こさないハムスターにおいては、血糖値の低下が顕著であったことから、血糖値を維持する自律的な調節が働くことが、低体温からの回復に必要であることが示唆された。低体温で6時間維持し、加温により正常体温に復帰させた場合は、各種血中逸脱酵素の上昇はなく健常な状態であることが確認できた。 次年度に計画している非冬眠動物における低体温誘導について、予備的な検討を行ったところ、マウスとラットを15℃程度の低体温に誘導することも可能であることが判明した。今後、非冬眠動物における低体温が臓器の障害を引き起こすか、健常な状態で回復させることが可能か、冬眠動物と類似の特性を示すかを順次検討していくことが課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(1)冬眠動物において低体温誘発、維持、覚醒のサイクルを人為的にもたらすこと、ならびに(2)確立した方法を冬眠しない動物に適用し、冬眠時の特徴を応用する基礎を築くことを目的として掲げている。初年度は、主に(1)の目的を達成するための実験を遂行し、ハムスターを冬眠と同等の低体温に誘導することができた。低温状態を6時間まで維持した後、加温により体温を復帰した個体には、血液生化学検査において大きな臓器傷害を示す所見が認められなかったことから、初年度に設定した目的は達成できたと判断できる。 一連の実験は、単に方法論の確立に留まらず、体温の恒常性を維持するためのセットポイントの他に、“熱産生を放棄するセットポイント”があるのではないかという仮説をもとに行ったものである。22℃付近で吸入麻酔を停止すると、体温を上昇させるためのふるえを起こすことなく、15℃以下の低体温に移行したことから、この仮説は正しいと判断される。しかしながら、TRPV1のアゴニストを投与し熱放散が亢進した状態で強制的に冷却することにより、熱産生を放棄するセットポイントを超えさせようとする試みは成功しなかった。この仮説を立証するために、今後、体温調節に関与する褐色脂肪組織を支配する交感神経活動が、熱産生を放棄する温度以下で減弱するか検証する必要がある。このような課題が残ったものの、2年目に実行することを予定していた非冬眠動物における低体温の誘導について、一部予備的な実験を行い、確立した方法が有効であることを確かめることができた。このような進捗状況を考慮し、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
ハムスターで確立した方法が、ラットやマウスでも低体温を誘導できるか実験的に確かめることが、2年目の最も重要な課題であるが、初年度に行った予備的な実験によりこれが可能であることが明らかになっている。ただし、どれ程の時間このような低体温を健常な状態で持続できるか、体温を復帰させ生存させることができるかという重要な課題が未解決であるので、この検証が今後取り組むべき課題となる。ハムスターで用いた方法を流用することが主体となるので、大きな問題なく推進することが可能である。細胞レベルの実験で、体温状態で発現し細胞の保護機能を発揮する分子が同定されてきているので、in vivoでのこの分子の発現が亢進するか否かを検証する実験を新たに組み込むことで、低体温時の体内環境をより正確に捉えることとする。また、血液中の代謝産物を網羅的の捉え、冬眠動物と非冬眠動物の違いを明確にする実験も行う予定である。 もうひとつの重要な取り組みとして、冬眠動物が示す有用な特性が低体温のラットでも認められるか検証する計画を推進する。虚血再灌流傷害を緩和、改善できるかを検証する実験では、動脈を結紮し、脳あるいは心臓に虚血を引き起こし、冬眠状態が傷害を緩和できるか調べる。放射線傷害、エンドトキシンショックを緩和、改善できるかを検証する実験では、冬眠状態においたラットに傷害の発生する量の放射線を照射し、影響を検討する。また致死量のエンドトキシンを投与して、冬眠に導入したラットが耐えられるかどうか調べる。さらに、化学物質による傷害を緩和、改善できるかを検証するために、四塩化炭素(肝障害)、フェニルヒドラジン(溶血)、TNBS(大腸炎)等、侵襲作用のある化学物質を冬眠状態のラットに与え、症状が解消されるか検討する予定である。
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