本研究の目的は、冬眠動物であるハムスターを人為的に低体温へ誘発し、維持、覚醒させる手法を確立すること、および確立した方法をラットに適用し、ラットにも冬眠の特性が見られるか明らかにすることである。 これまでの研究で、ハムスターを用いた実験においては、脳室内にアデノシン誘導体を投与するとともに低温室で冷却することにより、冬眠と同等の低体温が誘発できることを明らかとしている。本研究においては、吸入麻酔を施して低温室に放置し、体温が22℃付近まで低下したところで吸入麻酔を停止する手技によっても、不整脈を発生させないでハムスターを15℃以下の低体温に誘導できることがわかった。このように低体温に導入したハムスターは、最大24時間まで維持させることが可能であり、自発的に低体温から回復する個体も存在していたことから、冬眠と近い状態を人為的に誘導できたと考えられる。この成果をもとに、非冬眠動物であるマウスとラットを冬眠様の低体温に誘導することを試みた。その結果、ラットやマウスにおいても、吸入麻酔を体温がある程度低下した段階で止めることにより、通常は心拍動を維持できない極度の低体温で生存させることに成功した。維持時間が6時間を超えると、血中逸脱酵素値の上昇や組織学的な傷害像が観察されるので、冬眠動物ほど長期間低温で維持できないことも明らかとなった。特に、6時間以上低体温を維持したラットを加温により体温を復帰させる実験では、臓器傷害が顕著に発生することが明らかとなった。低体温を臨床応用する際に考慮すべき重要な視点を提示する結果である。 以上のように本研究では、人為的に極度の低体温に誘導する方法を開発すること、ならびにその方法で非冬眠動物を冬眠様の低体温に誘導することを目標として掲げたが、いずれも達成できたと言える。
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