発情した雌から分泌される雌性性フェロモンは、雄の繁殖行動を誘発するなど、動物の生殖に重要な役割を果たしている。これまでに、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)を産生しない突然変異マウスであるhypogonadal (hpg) マウスを用いた実験により、GnRH刺激を受けた雌マウスは雄マウスに追尾される回数が増えることを見出した。前年度までに下記のような研究成果を得た。hpg雌マウスにエストロジェン含有シリコンチューブを1週間留置した後、GnRHアゴニストである酢酸フェリチレリン(GnRHa)または溶媒のみを側脳室に投与した。投与から30分後に正常雄マウスのケージに移し、行動を記録、解析した。GnRHa投与群は、雄マウスに追尾される回数、マウント回数、ロードシス商のいずれも、対照投与群に比べて高かった次に、同様の処置を行ったhpg雌マウスから尿を採取し、GC-MS分析を行ったところ、GnRHa投与群の尿中には対照群では認められないピークが複数個存在した。これらのうちの1化合物を野生型の去勢雌マウスの外陰部に塗布し、正常雄マウスのケージに移して行動観察を行ったところ、化合物を塗布した雌マウスに対する雄マウスの追尾行動は、対照群に比べて僅かであるが有意に増加した。以上の結果から、GnRH刺激された雌マウスは雄の繁殖行動を誘発すること、この現象は鋤鼻器を介して伝達されることが明らかになった。さらに、雌マウスの尿中にGnRHによって放出が刺激される化合物が存在し、それが雄の追尾行動を増加させることが示唆された。本年度は、これらの結果が再現よく得られる条件を策定するとともに、ロードーシス商に与える影響について十分な個体数をもっておこない、論文投稿のために必要な補助的な実験を行った。
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