テトラサイクリン(Tet)応答性転写因子を恒常的には発現するトランスジェニックマウスの雄胎子線維芽細胞へTet誘導プロモーター制御下にある山中因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)発現プラスミドを導入後、ES細胞培養条件下で1週間、Tet誘導体(Dox)存在下で培養することにより、胎子線維芽細胞が初期化されiPS細胞が誘導されることを確認した。この初期化条件をもとにマウス線維芽細胞から直接人工精原幹細胞を誘導できるか否かを検討するため、Doxによる誘導を、1)精原幹細胞培養条件下で1週間、2)精原幹細胞培養条件下で2週間、3)ES細胞培養条件下で1週間、行った後、精原幹細胞培養条件にて培養を続け、継時的に増殖してくる細胞の性状をアルカリフォスファターゼ(AP)染色ならびに免疫染色により解析した。その結果、1)から3)の3条件において、いずれも精原幹細胞様細胞の増殖もiPS様細胞の増殖も認められなかった。ただしES細胞培養条件下に移行した場合には、3)の条件のみAP陽性のiPS細胞の増殖を確認した。一方、ES細胞培養条件下において1週間の初期化を行った後、1週間のES細胞培養条件下での前培養後、精原幹細胞培養条件へ移行させた場合には、生殖細胞マーカー(DDX4)を発現する未分化細胞の増殖を確認した。以上の結果から、精原幹細胞培養条件は山中因子による胎子線維芽細胞の初期化には不十分であること、ES細胞培養条件下にて初期化され誘導された未分化生殖細胞様細胞は精原幹細胞培養条件下においても自己複製可能であることが示唆された。ほとんどの細胞は精原幹細胞マーカーを発現していなかったが、一部の細胞は生殖細胞マーカーと精原幹細胞マーカーを弱く発現していたことから、今後培養条件等を検討することにより精原幹細胞へ移行する可能性が示唆された。
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