研究課題/領域番号 |
25660256
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小田 真由美 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (80567511)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | エピゲノム / 細胞分化 / リプログラミング / DNAメチル化 / 細胞種特異的遺伝子 / 転写因子 / エピジェネティック制御 / ES細胞 |
研究概要 |
本研究計画は、複数の転写因子の強制発現により細胞に異なる分化方向性を与える際の細胞の状態をDNAエピゲノム解析によって理解することを目的としている。25年度は、当初計画していた繊維芽細胞を用いた直接リプログラミング法の効率が低かったため、まず転写因子誘導ES細胞株を用いた比較を先に進めることとした。より広く遺伝子を発現させるプライミング遺伝子としてHnf4a、直接細胞種特異的的発現遺伝子に作用する方向性決定遺伝子としてFoxa1を単独で強制発現させ、分化効率の違いを検討した。その結果として、Hnf4aがより強く肝細胞マーカーを発現することがわかったが、一方で培養の条件によって強制発現させる転写因子の発現強度が大きくぶれることが同時にわかってきた。そこで、そのぶれをできる限り補正するために、ES細胞を低血清培地で培養したのちに遺伝子強制発現を行った。その結果、双方のES細胞株から目的転写因子自体の発現が効率化された。しかし、依然として細胞株間の目的転写因子発現量にはばらつきがあるため、実験系および結果の評価の仕方について工夫が必要である。同様にして、他の転写因子誘導株についても強制発現を行い、形状および遺伝子発現を観察し、再現性の良い条件を検討中である。また、より詳細で定量的なDNAメチル化解析のためにRNA probeによるpromoter-captureを介したPost-bisulfite adaptor-tagging法 (PBAT法)を習得し、解析の条件検討を既に行った。一方で、26年度に開始するヒトES細胞での転写因子強制発現実験のための転写因子誘導ES細胞株を作製した。マウスでの解析結果を元に、ヒトES細胞での分化誘導とエピゲノム解析を開始するためにほぼ準備ができている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
線維芽細胞を題材としていた当初の計画に対し、転写因子強制発現ES細胞株を用いてより詳細に条件検討を行うよう計画を変更した点は、転写因子強制発現系からのトランスジーン発現量の細胞株間の差を考慮すると、詳細な検討を繰り返し行える点においてより適切な選択であるといえる。このことにより、具体的なデータの評価法について検討を加える事ができ計画を変更した点はエピゲノムへの影響を定量的に捉える上で重要である。また、HELP tagging法に加えてRNAキャプチャープローブを用いたpromoter-captured PBAT法を習得したことは、転写因子強制発現の結果としてのエピゲノムを測定するためのより定量的な解析のために重要であり、時宜にかなった進展であるといえる。一方で、DNAアクセシビリティ解析のための条件検討においては、DNase I cleavage法の解析コストがあまりにも高いため、代替法として通常のDNase I法及びFAIRE法の適応を検討している。いくつかの変更点のため、計画遂行がやや遅れ気味ではあるが、昨年度中にDNAライブラリ自動作成装置や次世代シークエンサー装置などの研究所への配備があり、解析コスト減と時間の短縮が図れるため、実験と解析のスムーズな連係において研究のスピードアップが見込めることは明るい展望である。ヒトES細胞を用いた実験に関しては、既に必要な転写因子強制発現系を持つES細胞株および、PBAT解析のためのヒトゲノム用のキャプチャープローブを入手済みであるため、26年度に実施するマウス-ヒト間の比較実験を早急に開始できる準備はほぼできているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
26年度は、25年度に検討した培養条件をもとに転写因子強制発現細胞株の遺伝子発現解析とエピゲノム解析を行っていく。また、これまでに行ったマウスでの研究をベースとして、樹立したヒト転写因子誘導ES細胞を用いた分化誘導条件の検討とエピゲノム解析を行う。25年度の進捗状況から、最終目的であるヒト細胞への応用を考え、まずヒトES細胞の分化誘導実験を進めることに重点を置く。各種マーカー遺伝子を用いて、種間での比較に最適な分化ステージを同定した上遺伝子発現データおよびエピゲノムデータを取得し、可能な限り早い段階で双方のエピゲノム比較を開始できるように実験を進める方針である。エピゲノムと遺伝子発現を比較していく上で、従来重点的に解析されてきたプロモーター領域だけでなく、広くエンハンサーを含む遺伝子上流の制御領域や、転写と密接な関係をもつgene body領域(プロモーターを除くエクソンおよびイントロン領域)でのエピゲノム情報を遺伝子と結びつける試行が必要であり、そのためのバイオインフォマティックな解析準備も進めていく。近年の報告より、様々なnon-coding RNAおよびnon-polyA RNAなどの、通常のmRNAとは異なるRNAの転写および機能が明らかになってきている。そのため、マイクロアレイ解析では解析できないそれらの転写産物の解析とエピゲノムとの本質的な比較のために、次世代シークエンサーでの転写産物解析を視野に入れている。場合によっては細胞分化条件検討の材料を縮小して転写産物解析に充てることを早急に検討し、26年度の研究計画とする方針である。
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