研究課題/領域番号 |
25660257
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
宮脇 富士夫 東京電機大学, 理工学部, 教授 (50174222)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | バイオテクノロジー / マイクロインジェクション / 遺伝子 / 人工染色体ベクター / 振動型マイクロインジェクション法 / 高濃度 / 生存率 / 発現率 |
研究概要 |
I.前核間細胞質マイクロインジェクション法 本法は2個の前核間の狭い細胞質スペースに高濃度のDNA溶液を注入する新しい導入法であり、本年度は主として本法の有効性を追求した。300 kbの導入DNAを高濃度(5 ng/μL以上)に調整し前核間細胞質に注入した。各実験日あたり40~70個程度のBDF1マウス受精卵をマイクロインジェクションしたが、約半年程度の学習期間の後に、実験日によってはインジェクション直後の生存率が80%以上という優れた成績を収めるようになり、その後4日間の培養でもレポーター遺伝子であるtdTomatoが発現する割合は20数%~77%とバラツキは多いものの、殆どが胚盤胞に到達するようになった。なお、本法を行うにあたり、研究代表者が提唱・開発してきた振動型マイクロインジェクションシステムを使用した。この場合、維持圧を40~50 hPaに保つのみで、インジェクション圧は使用せずに施行した。 II.細胞質・前核順次マイクロインジェクション法 本法は前核を串刺しにし前核後方の細胞質にインジェクションしつつ、インジェクション針を引き抜く際に前核内にもDNAを注入する新しい導入法である。充分な数の検討は行えていないが、核引き現象(インジェクション針を前核から引き抜く際に前核内の物質を細胞外に引きずり出すこと)の発生が多く、これが起こらなくても細胞質よりも前核内への注入抵抗がはるかに低いため前核に多量のDNAが注入される傾向もあることが分かり、現在のところ良い成績は得られていない。 III.通常の前核マイクロインジェクション法 300 kbのDNA断片を5 ng/μL以上の高濃度で前核に注入するのは細胞質よりもはるかに容易ではあるが、数kb程度のDNAに比べて非常に高率に核引き現象が起こることが判った。生存した胚も強烈にtdTomatoを発現し発生が停止することも多かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)提唱している新しい遺伝子導入法の一つである「前核間細胞質マイクロインジェクション法」で良好な成績を挙げているため、おおむね順調と評価した。すなわち、300 kbという巨大DNA断片(tdTomato BAC DNA)を5 ng/μLと7.5 ng/μLという高濃度で前核融合前の狭い細胞質スペースに多量に注入すれば、研究業績の概要の項目に記載したように、高い生存率が得られることが判った。さらに、外来DNAには毒性があるとされているが、これまでの結果ではむしろ7.5 ng/μL の方が生存率、胚盤胞到達率、tdTomato発現率の高い結果が得られている。 2)tdTomato発現率を高めるためには、tdTomato BAC DNAの注入量は濃度が低い場合はより多量に、濃度が高い場合はより少量にインジェクションする必要がある印象を得ている。しかし、前核マイクロインジェクション法とは異なり、細胞質への注入量は容易に計測できないので、定量的評価はできていない。 3)また、マイクロインジェクタはFemtoJetではなく、自動制御機構の無い加圧装置を自作して使用した。本加圧装置は高圧付加回路(7000 hPaを上限)と低圧付加回路(30~300 hPa)の2系統の圧付加が可能であり、マイクロピペット先端の詰まりなどを除去するために高圧付加回路を使用し、維持圧やインジェクション圧は低圧付加回路を使用する。さらに、両系統の圧力、特に低圧付加回路の圧力は精密に計測できる機能も有している。これによって、インジェクション中の圧力変化も計測できるようになり、振動型マイクロインジェクション法のメカニズムの解明が進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
1)もう一つの新しい遺伝子導入法「細胞質・前核順次マイクロインジェクション法」は現在のところ良好な結果が得られていないが、細胞質ばかりでなく前核内にもDNAを注入する方法であるため、高濃度の必要はないと考えられる。さらに、導入DNA濃度を低くすれば、核引き現象も軽減するかもしれないので、これらについても検討したい。 2)「前核間細胞質マイクロインジェクション法」の評価をより定量化できる工夫を施していく。 3)自作した2系統圧力負荷・計測装置を改良する。 4)新しいBAC DNA導入法を成功させるために重要である振動型マイクロインジェクション・システムの振動子などにも改良も加える。
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次年度の研究費の使用計画 |
東京電機大学は科学研究費の採択が決定しても、経理部に入金されない限り使用できない仕組みになっており、当該年度で実際に使用開始できるようになったのが、7月中旬過ぎであったため、次年度使用額が生じた。今後このような不都合を生じないように、平成26年度からは科学研究費交付が決定すれば使用できるように東京電機大学の仕組みを変更することとなった。 上記のように、次年度使用額が生じた主因は研究計画に問題があったのではなく、大学の経理の仕組みに問題があったため、基本的な使用計画に特別な修正を加えるつもりはないが、振動型マイクロインジェクション・システムの改良、受精卵の個別同定システムの研究(マイクロインジェクション時点から培養まで、個々の受精卵を追跡・同定できるシステム)なども研究計画に加えて、今回発生した次年度使用額を適切に使用する。
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