研究課題/領域番号 |
25660257
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
宮脇 富士夫 東京電機大学, 理工学部, 教授 (50174222)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | バイオテクノロジー / マイクロインジェクショ / 遺伝子 / 人工染色体ベクター / 振動型マイクロインジェクション法 / 高濃度 / 生存率 / 発現率 |
研究実績の概要 |
前核間細胞質マイクロインジェクションの効果を2つの濃度のtdTomato BAC DNA(> 300 kb)溶液で比較した。36頭の雌BDF-1から得られた615個の受精卵を7.5 ng/uLの高濃度投与群(399個)と2.0 ng/uLの低濃度投与群(216個)に二分した。全ての受精卵はインジェクション後6日間培養し発生を観察した。 結果:1)12実験日のいずれにおいても、1本のインジェクション針で全てのインジェクションが終了できた(平均58個)。インジェクション直後の生存率は高濃度群で77.7% (310/399) 、低濃度群で79.6% (172/216)と差がなく(P = 0.6091、Fisher直接確率検定)、胚盤胞到達率はそれぞれ72.9% (291/399) 、79.6% (172/216)と、低濃度群が高い傾向を示した(P = 0.0778)。tdTomato を発現した胚盤胞の比率は高濃度群35.8% (143/399) 、低濃度群6.0% (13/216)であり、高濃度群が有意に高かった(P < 0.0001)。2)低濃度群の場合、途中で針が閉塞し先端を折ることが多かったが、先端を折った後には明らかにBAC DNAの細胞質へのインジェクション量が増加したため、その多寡で2群に分類し比較した。直後の生存率と胚盤胞到達率は両方とも高注入量群で71.9%(46/64)、低注入量群で82.9%(126/152)であり、低注入量群が高い傾向を示した(P = 0.0947)が、発現胚盤胞率はそれぞれ14.1%(9/64)、2.6%(4/152)と、高注入量群の方が有意に高かった (P = 0.0028) 。 結論:前核間細胞質マイクロインジェクション法は高い生存率が期待できるが、組換えを起こすには高濃度の溶液が必要であること、さらに低濃度の場合はより多くの注入量が必要であることが判った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)提唱している新しい遺伝子導入法の一つである「前核間細胞質マイクロインジェクション法」(2つの前核が近接した時点で、前核間の狭い細胞質に注入する方法)の評価は充分行え、良好な結果を得たと判断している。すなわち、充分な日数の実験日(12実験日)において充分な個数の受精卵(36頭のメスマウスから合計615個)を用いて、高濃度BAC溶液(7.5 ng/uL)と低濃度BAC溶液(2.0 ng/uL)の比較実験を行い、両群ともに70%を超える高い生存率および高い胚盤胞到達率が得られた。さらに、レポーター遺伝子であるtdTomato を発現した胚盤胞の比率は高濃度群で35.8% (143/399) 、低濃度群で6.0% (13/216) という結果も得られた。これらの結果は、「前核間細胞質マイクロインジェクション法」は前核マイクロインジェクションの弊害(前核内への直接投与によって高率に発生する核引き現象による致命的ダメージ)が回避できること、また濃度を上げることによって予想されていた細胞質インジェクションの弊害(核内への直接投与でないために、核内へのBAC DNAの移行が悪く、したがって核DNAへの組換え効率が悪い)も相殺できることが実証できた。 2)もう一つの新しい遺伝子導入法である「細胞質・前核順次マイクロインジェクション法」(前核を串刺しにし後方の細胞質に注入しつつ、ピペット抜去の際に前核にも注入する方法)は想定とは異なり、前核マイクロインジェクションと同様に高率に核引き現象を起こすことが判り、現時点では「前核間細胞質マイクロインジェクション法」よりも優れた点が見出せていない。 3)昨年度自作した2系統圧力負荷・計測装置の低圧センサーはゼロ点が移動しやすく、毎回ゼロ点較正を行わなければならなかったが、この点を改良した。
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今後の研究の推進方策 |
1)もう一つの新しい遺伝子導入法「細胞質・前核順次マイクロインジェクション法」はこれ以上追究しないこととする。すなわち、良好な結果が得られていないばかりでなく、「前核間細胞質マイクロインジェクション法」に依れば、7.5 ng/uLという高濃度BAC DNA溶液の投与でも受精卵には毒性を示さないことが判り、低い濃度のBAC DNA溶液に固執する理由がなくなったからである。 2)「前核間細胞質マイクロインジェクション法」による遺伝子組換え効率がBAC DNA溶液の濃度依存性であるかどうか、5.0 ng/uLと10.0 ng/uLのBAC DNA溶液で確かめる。 3)難しい課題ではあるが、「前核間細胞質マイクロインジェクション法」において細胞質にインジェクションされた溶液量の定量化を果たしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が16,787円という結果になったが、この額からして今年度の研究はほぼ予定通りに進んだと判断している。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額である16,787円は問題なく使用できる金額である。
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