本研究の第一の目的は、DNA断片からバキュロウイルスゲノムを人工合成する技術を確立することであり、これは多様な分野で利用されているバキュロウイルスの有用性を高め、更なる高次利用を展開するために不可欠な技術である。昨年は、カイコバキュロウイルス(BmNPV)ゲノムに酵母の複製起点を導入することに成功すると共に、ゲノム全域をカバーする38DNA断片を大腸菌にクローニングすることが出来た。本年度は、これらの成果を基に、Gibson et al. (2009)の方法を利用したBmNPVゲノムの酵母内人工合成(再構築)を試みた。まず、ウイルスゲノムの一部をカバーする5kbp-10kbpのゲノム断片6個を複製起点を有する断片と共に酵母に導入したところ、酵母内で複製可能な環状DNAを得ることに成功した。そして、PCR等を用いたDNA構造解析の結果、この環状DNAは導入したウイルスゲノム断片が酵母内で期待通り正確に連結したものであることが推定された。そこで、ウイルスゲノム全領域をカバーする5kbp-10kbpの38断片を用いて完全長のウイルスゲノム再構築を試みたが、酵母内で複製可能な環状DNAを得ることは出来なかった。その後、ゲノムDNA 断片の精製方法の改善などを行い、最終的にはゲノム全域をカバーする21断片と酵母複製起点を含む断片を酵母細胞に導入することで、酵母内で複製可能なBmNPVゲノムDNAの回収に成功した。得られたDNAの構造を解析した結果、本環状DNAは導入した断片が期待通り連結した構造であることが推定された。
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