研究課題/領域番号 |
25660261
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
堀 雅敏 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (70372307)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 短波長 / 可視光 / 青色光 / 殺虫 / 致死 / 照射 / 害虫防除 / 成育阻害 |
研究実績の概要 |
屋外性の昼行性昆虫であるハムシに対する短波長可視光(青色光)の殺虫効果をイチゴハムシを用いて調査した。ハムシはこれまでに調査したキイロショウジョウバエやチカイエカ、ヒラタコクヌストモドキと比べて太陽光に曝されるリスクが高いためか、青色光に対する耐性が高かった。卵、蛹に対する殺虫効果を調べたが、最も高い効果を示した波長光を直射日光青色成分総量の1~1.5倍程度の光強度で照射しても、死亡率は60%程度に止まった(これまでの3種では100%の致死効果)。また、卵と蛹で効果的な波長が異なり、卵では440nmが、蛹では467nmが最も高い効果を示した。さらに卵では456nmが、蛹では440nmが前後の波長と比べて効果が低く、谷型を示した。 ヒラタコクヌストモドキの蛹については光強度と殺虫効果の関係を調査した。昨年度の照射強度では全ての青色波長で100%の致死率が示されたが、強度を1/2にして照射したところ、440nm以下の波長では波長が短いほど殺虫効果が高く、467nmにも比較的高い殺虫効果があることがわかり、種特異的な有効波長を明らかにすることができた。 チカイエカについては、蛹に関して光強度と殺虫効果の関係を明らかにするとともに、卵に対する殺虫効果を調査した。その結果、チカイエカは卵と蛹で有効波長の特異性が類似しており、417nmのみに高い効果がある1山型を示すことが明らかになった。 キイロショウジョウバエについては、卵と終齢幼虫に対する有効波長および光強度と効果との関係を調査した。その結果、卵では基本的に波長が短いほど殺虫効果が高いが、440nnmだけは前後の波長より効果が明らかに低くなる谷型を示すこと、終齢幼虫では、404~465nmにかけては効果に大きな違いがないことが明らかになった。これらのことから、ある種の昆虫では、成育に伴って有効波長が変化することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は推測していなかった様々なことが明らかになってきている。そのうちの一つは、昨年度見出した有効波長の種特異性であるが、今年度は、さらに、キイロショウジョウバエやイチゴハムシなどある種の昆虫においては、有効波長が成育に伴って変化することを明らかにすることができた。また今年度は、ハムシでも青色光照射の殺虫効果を示すことができたことから、屋外性で昼行性の種でも、青色光の強度を直射日光の青色成分総量程度まで高くすれば、効かせられる可能性が示された。すなわち、ある程度継続的に照射を続ければ、光耐性が高い昆虫種でも、繁殖を徐々に抑制できる可能性を見出した。 今年度は、世界で初めて見出した青色光の殺虫効果を学術誌「Scientific Reports」で公表し、プレス発表することもできた。この発表は世界的に大きく注目され、Scientific Reportsでは注目の論文に選ばれるとともに、各種新聞、テレビ、雑誌、インターネットニュースサイトなど様々なメディアで紹介された。それをきっかけに、様々な企業からも事業化に向けた問合せがきている。 以上のことから、本課題は基礎的知見の積み上げとともに、実用化の動きも出始めており、当初の計画以上に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
チョウバエなど青色光殺虫技術の実用化の要望が高い対象昆虫種を優先的に、青色光の殺虫効果、有効波長の特定などを調査する。また、アブラムシなどの不完全変態昆虫にも青色光が殺虫効果を示すか明らかにする。メカニズムの解明においては、キイロショウジョウバエを用いて、まだ未調査の成虫に対する有効波長を明らかにしていくとともに、蛹においても、蛹の発育ステージで有効波長が変化するか明らかにしていく。さらにキイロショウジョウバエをモデルに、照射強度、照射時間、殺虫効果の3つの関係、および暗期挿入による殺虫効果への影響も明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
更新予定であったLEDパネルが今年度の使用には耐えられたことから、次年度に更新することとした。また、光の波長と強度を測定するための高速分光ユニットのメンテナンス時期が、使用状況の関係から、予定していた今年度から次年度に変更する必要が生じた。また、キセノン光源ランプを購入予定であったが、価格等の関係で今年度の購入は難しいと判断した。以上のことから次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
使用に耐えられなくなったLEDパネルを新しいものに買い替える予定である。また、高速分光ユニットのメンテナンスも行う予定である。さらには、反射光や散乱光を含め、供試虫に実際に照射されている光の量をさらに適切にとらえるため、高速分光ユニットに取り付けるための集光治具を購入する。また、キセノンランプから特定の波長光を取り出すための様々なタイプのバンドパスフィルターやカットフィルター、NDフィルターなども購入する他、活性酸素の蛍光検出用試薬など、実験に必要不可欠な、比較的、価格の高い消耗品類を購入する計画である。
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備考 |
本研究成果はScientific Reportsに掲載され、注目の論文に選ばれるとともに、各種メディアでも紹介された。本論文の注目度を示すAltmetric scoreは100を超え、同スコアを採用している学術論文約360万報の上位1%以内にランキングされている。
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