アブラヤシの生産拡大は近年の熱帯林とそこでの生物多様性の減少の大きな要因とされるが、本研究ではアブラヤシ上に巣を構築するアジアツムギアリを害虫防除資材(在来捕食者)として用い、低コスト生産と環境保全を両立の可能性を科学的に探究する。減農薬アブラヤシ園が多少とも地域の生物多様性の避難場所にできないか群集生態学的解析で検討する。同時に、他の系では困難なアリ類における厳密な野外個体群動態の世界初のデータ収集を行い、天敵を用いた総合的害虫管理と血縁淘汰理論の前提となる真社会性である本種個体群の密度依存的制御の検証を試みる。さらに営巣行動を実験的に研究し樹木当たりの巣数と個体群密度の双方の動態の背後にある社会生理学的な至近機構を明らかにする。以上の目的で前年度までは研究を継続してきたが、27年度は研究代表者の病気治療のため現地調査が困難になった。そこで、26年度に収集したツムギアリの標本を用いDNA分析を行いコロニーの家族構成(女王数、女王の交尾回数)を推定するラボワークと、やはり26年に収集した巣サイズとアリの構成に関する基礎データを27-28年度にわたり解析し、個体群動態調査法の確立を目指した。多女王または女王多回交尾を示す巣も見られたが平均血縁度が0.5と高くコロニー数は概ね有効集団サイズに比例すると考えられた。また巣の物理的大きさとコンテンツ(ワーカー数)には有意相関が見られなかった。これらから巣数を単純にカウントすることで個体群動態が観測する方法青か確立した。国内の野外において多巣性を示すアリでこの方法を適用しコロニーサイズの推定を試みた。
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