我々はカイコが吐糸するシルクの力学的な物性を遺伝子組換え技術を用いて改変し、従来以上の高強度・高弾性を有する高機能なシルクを作出することを目指している。その実現のため、高強度、高弾性で知られる天然繊維である「クモの牽引糸」に注目し、そのタンパク質をカイコの絹糸腺で発現させ、カイコの吐糸するシルクにクモ糸の持つ高強度、高弾性を持たせることが想定される。本課題においては、カイコに導入するためのクモ糸の遺伝子を獲得するため、オニグモの牽引糸タンパク質をコードする完全長のcDNAを獲得することを目標とした。 一般に、クモの牽引糸タンパク質は長鎖かつ高度な繰り返し配列を有する特徴がある。そのため、大腸菌やPCR法を用いた通常のクローニング法が通用しないという問題がある。そこで、本課題においては、PCR法での遺伝子増幅や環状プラスミドを用いない方法により、オニグモの牽引糸タンパク質をコードする遺伝子の獲得を目指した。 まず採集したオニグモから抽出したmRNAを、通常よりもはるかに高温な条件で逆転写反応を行い、得られた産物から第1鎖cDNAを合成し、それを直鎖状プラスミドに導入した。その結果、1kb弱の牽引糸遺伝子が得られた。我々が用いた手法が正常に働いていることが確認されたので、今後はサンプル数を増やして、より長鎖な配列が得る予定である。 またオニグモの牽引糸タンパク質のN末端解析を行い、オニグモ以外のクモ類の先行研究の結果なども踏まえて解析した。現在のところ、その結果は確定的なものではないが、今後の配列解析の際に参考にする予定である。 さらにオニグモ、ジョロウグモ、オオジョロウグモの牽引糸の引張り物性を測定した。その結果、オオジョロウグモの牽引糸は、強度、伸度ともにオニグモ、ジョロウグモを凌駕していることが分かった。今後は、オオジョロウグモの牽引糸遺伝子も利用していきたい。
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