研究課題/領域番号 |
25660268
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研究機関 | 独立行政法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
霜田 政美 独立行政法人農業生物資源研究所, 昆虫相互作用研究ユニット, 研究ユニット長 (80344000)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 光受容 / 概日時計 / チャバネアオカメムシ / 走光性 / 活動リズム / 薄明薄暮性 / 複眼 |
研究実績の概要 |
多くの昆虫が示す活動リズムパターンである「薄明薄暮性」の制御機構の一端を明らかにするために以下の実験を行った。①LED照明装置を用いて微弱光をチャバネアオカメムシに照射し、走光性や活動リズムを誘起する波長と強度を探索した。照明の明るさは電流値で調整して、虫に照射される光量子束密度(photon flux density)を測定した。走光性は、赤外線トラッキングシステムを用いて、二次元オープンフィールド上での歩行活動について光照射に対する応答を検出した。活動リズムは、高感度アクトグラフを用いて直径4cmプラスチック容器内での微小動作を検出した。その結果、夕方の活動リズムピークは特定領域の波長に強く反応して抑制されることが判明した。②野外の自然環境条件下で、薄明前後の時間帯と薄暮前後の時間帯におけるチャバネアオカメムシの活動リズムを測定し、照度を同時記録して、極微弱光の活動励起効果の検証を計画した。ここで、屋内で長期間継代した虫は活動リズムに変異が生じる為、7月以降の越冬後の子世代を野外より採集して、G1~G5世代までの間に行動解析実験を行った。しかしながら、本年度は野外での発生数が少なく、飼育系統を樹立することができなかった。③複眼における光受容体であるオプシンタンパク質ファミリーのcDNAを用いて、dsRNAマイクロインジェクションによる発現ノックダウン実験を試みた。その結果、UVオプシンおよびLWオプシン遺伝子の虫体内での発現を10%以下に抑制することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験①について、特定波長領域による走光性や活動リズムの誘起に成功したが、光量依存的な閾値の決定には至らなかった。実験②については、本年度はチャバネアオカメムシの“はずれ年”で発生数が極端に少なく、関東他県でも採集を試みたが、ほとんど採集できなかった。このため、飼育系統を樹立することができず、ほとんど行動解析実験を行えなかった。実験③については、当初の計画通り、複眼における光受容体であるオプシンタンパク質ファミリーのうち2種について、dsRNAマイクロインジェクションによる発現ノックダウンに成功した。ただし、波長選好性の実験は十分ではなく、今後のデータ蓄積が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
実験①については野外実験を平行して実施しながら詳細な行動解析を進める。実験②については野外系統の確立を行い再チャレンジする。当初の実験計画に沿って「自然環境下でカメムシの概日行動リズムの測定」を試みる。極端なカメムシの“はずれ年”でなければ、つくば・茨城県内で十分な研究材料を確保できるはずである。また、より確実に研究を実施するために、関東他県に加え、毎年カメムシが大量発生する九州地方でも昆虫採集を行う計画である。実験③については、まだ得られていないオプシン遺伝子についてcDNAクローニングを進めるとともに、dsRNAマイクロインジェクション実験を行い、遺伝子ノックダウン個体における光応答感受性低下の確認と行動レベルでの形質発現の有無を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、計画書に従って「自然環境下でカメムシの活動リズムを測定」する予定だった。屋内で長期間継代した虫は活動リズムに変異が生じる為、野外系統を採集して分析する必要がある。カメムシは春から発生するが、昨年は“はずれ年”で発生数が極端に少なく、関東他県でも採集を試みたが、ほとんど採集できなかった。研究材料が得られず、やむをえず、夏以降は補助員の雇用も中断したため、賃金と実験消耗品に未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度も、当初の実験計画に沿って「自然環境下でカメムシの概日行動リズムの測定」を試みる。昨年のような極端なカメムシの“はずれ年”でなければ、つくば・茨城県内で十分な研究材料を確保できるはずである。更に、より確実に研究を実施するために、関東他県に加え、毎年カメムシが大量発生する九州地方でも昆虫採集を行う計画である。未使用額はそれらの経費に充てることとし、当初の研究目標を達成したいと考えている。
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